ハンドルを切ってかぶき町を駆ける。

マダオはタクシー運転手となっていた。

 雛という厄神を自称する人物のアドバイスで最近できた守矢神社という神社の床下で生活することで夜な夜な変な幼女に襲われる事はなくなり、道を歩いてればバズーカの流れ弾が当たるような不運に遭いつつも、ホームレスから社会人にクラスチェンジ、つまりなんとか再就職を果たしていたのだ。

 タクシー運転手は二度目だが、以前のようなけだるさはなく、社会の一員としてのやりがいを感じていた。

 道端に小さな手が上がっているのを目にし、そこにタクシーを停めた。
そう、停めてしまったのだ。


「どうぞー」と後部ドアを開ける。
黒いマントをした緑髪の女の子が入ってきた。頭の触覚みたいのは何だろう。
次に茶色い服に帽子の少女。背の翼みたいなのは流行っているのだろうか。
前のドアからは水色の髪と服の子。背には氷の羽のようなものがあり、急に温度が下がったのは気のせいだろうか?
最後に、黒い球体……球体?!

「あのお客さん。大きな手荷物は後ろのトランクにしまったらどーです?」
「いえ、荷物じゃなくて……」

と、触覚の少女。
球体から、「わはー」という声がした。

「ルーミアちゃんんんんンンン?! その声はルーミアちゃんんんンンン!!!?
え、何どーしたの? 女の子から物体にクラスチェンジしちゃったのぉぉぉ?」

「ルーミアちゃんは日光に弱いから、周囲に闇を覆うんです」

「あ、食べていい人類だー」

「相変わらず捕食対象なんですけどォォォ!!」

「さっきルーミアが言ってたのこの人? おでんのダシには良さそうね。おいしそう」

「あんたもかよオォォオ!! お客さんが運転手の命狙うってどんなタクシーだぁぁぁぁ!!」

「二人とも何を言っているの! 食べるならもっとおいしくソテーしないと!!」

「3人目だぁぁぁああ!! 俺食おうとしてる奴後ろに3人いるんですけどォォォォォ!!
お客さん送る前に俺が胃袋に送られるゥゥゥ!! 俺をウ○コにクラスチェンジさせる気かぁぁぁああ!!!
降りろォォォォ!!! みんな降りろォォオオオォ!!!」

「大丈夫! 最強のあたいがいるからね! 守ってやるよ!!」

「幻想郷じゃないから人は襲わないわよ。人間をおでんにしたら巫女に殺されそうだし」

「ソテーにしないと食べられそうにないし、襲いませんよ。ルーミアちゃんも襲わないでね」

「わはー」

「……それじゃどこ向かいます?」

「え、どこへでも行けるんですか? それじゃ、さっきあった守矢神社までおねがいします」


「自動の車だけあって勝手に動いていくのね。屋台もこうしたいわ」

「周りがどんどん後ろに下がって行くよ。どんな河童の技術なんだろ」

「へーそーなのかー。真っ暗で何も見えないー」

「どんな奴もあたいたちが追い抜いていく! あたいったら最強ね!」

「……お客さんどこの星からやってきたんですか?」

「その前にどこに向かっているんですか?」

「ちょ……お客さん? 自分で守矢神社って言ったでしょ!」

「昔から神社は幻想郷にしかないわよ! この世界にあるわけないわ。リグルがそんな事言うわけないじゃない!」

「んじゃどこに行くつーんですかぁ! 大体俺、その神社の床下に住んでるし! つーか、なんでタクシー停めたぁぁぁああ!!」

「あたいが手を挙げていたら停まったからね! 乗り込んでやったよ!!」

「何だそりゃあああぁぁ!!! タクシー乗る気なかったんかい!!」

「「「「タクシー? 何それ、おいしいの?」」」」

「降りろォォォォォォオオオ!! みんな降りろォォォォォォオオオオオ!!!」

 その時、赤信号で停まった。

「あ、停まった」

「ちゃんと動きなさいよ」

「わはー、真っ暗だー」

「いや、お客さん。赤信号だからね。ここを突き進んじゃうと危ないし、俺クビになるし、それ以前に死んじゃうし」

「ぐぬぬ、ちょこれーとでざいなー!」

助手席の少女がマダオのブレーキを踏んでいる足を蹴り飛ばし、アクセルを踏みつけた。
「ちょっとおおォォォオ!!! お客さんんんんンンンン!!!」

タクシーは暴走を開始する。

「ちょっと! チルノちゃん!」

触覚の少女が叫ぶ。

「それを言うなら、ちょこざいな、だよ!」

「そんな事言っている場合かよォォォ!! なんかこの子無駄に力強いんですけど!
アクセルから足を離してくれないんですけどおおおぉぉオオオ!! 足が邪魔でブレーキ踏めないしよオオオォォ!!!」

「全ての物を追い抜いていく!! あたいったらやっぱり最強ね!!」

「どけろオオオォ! お前の足をまずどけろォォォォオオ!!!」

「8時ちょうどのー、暴走車でー、私は私は、帰りますー♪」

「なんで今そんなお気楽な歌を歌えるんだぁぁぁああ!! 」


 車を避け、人を掠り、物に当たりながら、タクシーは奇跡的なドライビングを続ける事で、さらなるスピードアップに成功し続ける!

「停めろぉぉぉ! 停めてくれぇぇぇ! 事故る! 事故る! 事故るぅぅぅぅうう!」

「何慌ててるのよ。八目鰻焼いてあげるから落ち着きなさい」

「ここで火打ち石を鳴らすなぁぁアア!! つーか、どっから八目鰻と備長炭持ってきたぁぁぁ!!」

「ミスティア−。熱いの反対!」

「何よ。冷たい弾幕撃つくらいならあんたはもっとスピードを挙げてなさいよ」
「やめろォォォ! いろんな意味でやめろォォォ!!」

「わはー」
ガブ!

「何の脈絡もなく俺の頭に噛みつかないでぇぇぇ! ルーミアちゃんんんん!」

「落ち着いて下さい。幻想郷虫の知らせサービスは何の異常も感知していません。よって今は安全極まりないです」

「現在同時進行形の命の危機しかないんですけどォォォオオオオオオ!!」

 サイレンが後ろから聞こえてきた。パトカーが追いかけてきたのだ。

「そこのタクシー、10数える間に停まるんだねぇい。いーち」
バズーカ発射。
見た目若い警官がハコ乗りで。そう、あのドSだ。

「えええええええ! その辺の物巻き込んで爆撃してくるんですけど!!」

「にーい」

「ちょっとオオォォォオオオ!!!」

「さーん」

「さいきょーのあたいの攻撃を受けてみろ!」

「みんな反撃だ!」

「そんな弾幕じゃ仕留められないわよ」

「わはー」

「やめてぇぇええ!! みんなのエネルギー弾俺に当たってるし!
ルーミアちゃんに至っては完全に俺を狙ってるし!!」

「だっておいしそー」

「この後に及んでまだ俺を食う気かい!!」

「しー、ごー、ろーく、なーな、はーち、くー」

あらゆる物を爆破しつつ、連続でバズーカを発射。

マダオに神が降臨したかのようなハンドル捌きで直撃はない。

そんな時だった。

「地面を凍らせてスピードアップだー! あたいの力をなめるなよ!」

「ちょ、ちょっとォォォォォォォォ!」

タクシーはものすごいスピンをする。

「じゅー」

そしてバズーカの弾はタクシーの真下で着弾。爆発。

タクシーは大回転しながら空を飛んだ。

この時タクシーはクレイジータクシーにクラスチェンジした。

「何の話だぁぁぁぁ!!」

そして、大回転するタクシーから人影を確認できた。

当たる。このままだと。

いや、その人影は何の前触れもなく、空を飛んだ。

タクシーは回転しつつ着地。

着地してからその人影を見ると、紅白だった。


「こら、バカ4人組。一体どう言うつもりなのよ」

紅白で脇の開いた服を着た人物が、マダオたち5人を乗せたタクシーに向かって言った。

「巫女だー」

「れいむ?」

「なんで巫女がここに?」

「あ、屋台のツケいい加減に払いなさいよ」

「あの、このお客さんのお知り合いですか? って、どうやって空、飛んでいるんです?」

地面に降り立ち言う。

「いいのよ、正直。あんな大回転する鉄の物体ぶつけてきたのは」

額には青筋が大きく入っていた。

「私が怒っているのは――……そいつ! 貧乏神じゃない! 一体なんてモンを連れてきたのよ!!
禍々しい黒メガネなんか掛けているし!!
どーゆー了見よ!!!」

「え?」

「神? こいつ?」

「信仰も何もないと思うけど」

「えー? これ食べていい人類だけど?」
「いやあの、何を言っているんです? ホームレスからタクシードライバーにクラスチェンジを果たしただけなんですけど。
最近できた神社の床下に住んでいるだけなんですけど」

「だから! 人間から貧乏神にクラスチェンジしかけているのよ! そいつは!!
貧乏神には信仰はいらない。ありえない貧乏に異常な不運に遭い続けていればいつしかなる。
その、貧乏神のなりかけ!
使えない神は私の神社の神だけで手一杯なのよ!
近寄らないで! 賽銭不足はもうたくさん!
食らいなさい!!
貧! 乏! 退! 散! 『夢想封印』!!!」


 川に大きな、水柱が立った。

川岸には4人の少女たちが這い上がってくる。

巫女のスペルによりタクシーごと思いっきり飛ばされてきたのだ。

「巫女に会うと思わなかったけど、タクシーっておもしろかったね」

「あんなに飛ばされるとは思わなかったけど」

「最強のあたいがいたからね!」

「わはー」

そんな後ろで、マダオは。

「………………」

 川に浮いていた。

死体のように流れていく。

タクシードライバーにクラスチェンジしたのもつかの間、再び“まるでダメなおっさん”にランクダウンが決定的なのだから。

 会社はクビ、タクシーは弁償。借金増加。

マダオは死体のように流れていた。

「あなた、厄すぎるわ。なんでいつの間に貧乏神にクラスチェンジしてるのよ。
どうする気? このままだと大物の貧乏神になってしうまうわ」

 マダオに声を掛けてきた厄神の声は、聞こえているのか、いないのか、何の反応もなく、マダオは流れていった。



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