「あなたは地獄行きです」

「いきなりなんの話だぁぁぁぁああ!!」

 亡くなった者たちが閻魔による裁きを受ける是非曲直庁。

その閻魔のいる壇上の前で、メガネがトレードマーク、むしろメガネ以外の何者でもないとさえ言われ続けている少年、志村新八が叫んだ。

それにかまわず閻魔による裁きは続く。

「第一に破廉恥極まる行為。これを周囲の迷惑も顧みず行い続けた」

「何かの間違いだよ! お通ちゃんファンクラブ親衛隊長としてあらゆる女の子に対して不純な気持ちなんかは持っていませんけど!」

「第二に他者に対する暴行。これを自らの快楽のためだけに行い続けた」

「ドSだったら上司と警察に一人ずついるんですけど! あの二人に言ってくれません?」
「第三にあなたは目立ち過ぎた。そう、あなたは少し目立ちすぎた」

「絶対他人だぁぁぁ! ありとあらゆる人から事ある度に地味と言われ続けた僕に何を言っているんですか!! そんなに目立つんなら苦労しねえっつーんだよォォォォ!!
つーか、周りが濃すぎるんだよォォォォォ!!!」

「常に人の前にあり、後ろにいる者をないがしろにした。本来なら協調すべきなのに。
何より自分にあるべき姿を逸脱するようになった。
あなたは自分を顕示する欲望が強すぎ、迷惑を与えた。これらがあなたの罪。
亡くなったあなたにはもう贖罪する事はできない。
よって地獄行きなのです」

「ちょおおおお!!! むしろ周りが出過ぎなんですけど! ないがしろにされてるの僕なんですけど! レギュラーキャラにも関わらず、人気もイマイチだったりするんでけど!!
つーか、何? 死んだぁぁぁぁ??! 僕がぁぁぁああ?!」

「まだ認めないのですか! ではこの鏡を見なさい」

と手鏡のような物が差し出された。

そこには、就寝している新八の姿が映しだされていた。

「え? 僕だよな……」

傍らにはメガネを置き眠っている…………メガネが動いた。
「え……?」

耳に掛ける所を足の様に立たせ、歩き出す!

そして窓を器用に開け、宙を飛び街へと駆けだした!

「ちょ……何してんの?」

人の足下をかいくぐり、街の片隅の物陰へ。そこにはたくさんのメガネがいた。

女の子用赤い縁取りのメガネや、警察っぽい渋いサングラス、結構高そうなサングラス、薄汚れた瓶底メガネ、丸いサングラス、エリートっぽい片目用メガネなどどこかで見たようなメガネがたくさん集まっていた。

「メガネの集会ィィ? 何集まってんだよ! 猫かよ! 片目用メガネなんかフラッフラじゃねえか! 無理してくんなよ!」

 すると、新八のメガネが片目用メガネに体当たりをした。跳ね飛ばした後、丸いサングラスや瓶底メガネ、渋いサングラスにも攻撃を加え、それを止めようとした結構高そうなサングラスにはより強烈な攻撃であろう、耳に掛ける所でサングラスの鼻の所をもぎ取った。

「いやあの、何コレ」

その後、逃げまどう赤い縁取りのメガネを取り押さえ、耳に掛ける所同士を絡ませ、カチャカチャした。

「いやマジで、何よコレ」

「これがあなたの犯した罪の一部です」

「メガネじゃねーかぁぁぁ! 終始一貫してメガネだぁぁぁ!
アリの喧嘩より迫力ねーし、蚊の交尾より興奮しねーよ!!
勝手にやらしゃあいいだろーがぁぁぁぁぁ!!!」

「何か言いたい事があると言うのですか!」

「ありまくりだぁぁぁ!!」

その時だった。

「ここまでお見通しだとはねぇ」

渋い声がした。

「いや、ありませんよ。閻魔様。地獄行って罰を受けてきまさぁ」

メガネからの声だ。

「ええええええ! メガネから……メガネから渡哲也みてーな声がぁぁ!」

新八の顔からメガネが自然と落ち、耳に掛ける所ですっくと立ち上がり、歩いて行った。

「オレの方が目立ったのはオレの責任じゃねぇ気がしますがねぇ。それも罪つーんならその罰を受けますぜ。メガネ掛け台の坊主、あばよ」

と、一瞬新八の方を向き、再び歩いていった。地獄への道を歩いていった。

「タイトルの意味コレェェ? って誰がメガネ掛け台だぁぁぁ!!
つーか、お前一人でここまで来いやぁぁ!」

「あー、いや。あたいからいいかな。それについて」

と、長い柄の鎌を持った赤い髪の女性が話しかける。小野塚小町と名乗る、メガネと新八を連れてきた人物でもある。

「ここに来る時に上手く歩けないとかそう言う理由がある場合は、杖や車イスを使うのを認めていてね。メガネがここに来る時に不便があるって事で、あんたもここに来て貰った訳だね」

「僕の立場はぁぁ!? 大体なんで勝手にメガネが歩き回るんだよ! 声の渋さだけで僕より存在感あるんですけど!!」

「あんまりにも長く使われてきた上に、あんたの存在の一部だったからか妖怪化したみたい。
って、あんたの町の人のメガネは妖怪化していたり、しかかっていたりするんだけど、一体何でそーなってんだか。
あたいとしては不思議だよ。猫みたいに夜な夜な集会開いているし。
メガネと人のどちらも本体になろうとしてるのかなぁ?」
「メガネがどれだけ重要性主張してんだぁぁぁああ!! そりゃキャラとしては重要だったりするんですけど!!!」

「ちなみにメガネはみんなあんな声だね」

「負けそうなんですけど! そんな渡哲也のメガネにすごまれたら負けそうなんですけど!
メガネに本体取られそうなんですけど!!」

「それはそうと」

壇上より声がした。

「そう、あなたは少ししゃべり過ぎる」

閻魔が言った。死神の小町は「ヤバイ」と小声で呟いた。

「あなたはいちいち大声で反応しすぎる。もっと大人しくすべきです」

「やれると思ってんのかよぉぉ!! この銀魂の世界でェェェ!!
その前にあんたマジ閻魔ァァア?! なんで萌えキャラ化してんだよ!!
威厳も何もねえじゃねぇか!! 流行に乗ればいいってもんじゃねーだろーがァァァ!!!
ここはアキバかよぉぉぉ!!」

ここにいる閻魔は皆がわかっている通り、見た目女の子の四季映姫である。

「外見で判断するものではありません。あなたのうるささも客観的事実です。
事ある度に人のつまずきなどを拾い上げては大声で注意、指摘を上げすぎです
相手に取っては話しにくくて仕方無いでしょう」

「四方八方凶悪なレベルのボケキャラしかいないんですけど!
眼球死亡した糖尿病寸前のドS上司に毒舌怪力爆食チャイナ娘が身内で、ゴリラ顔の変態ストーカーに超絶マヨラーに性格崩壊サド警官に、天然ボケテロリストに劣化したオバQみてーなそいつのペットがいて、メスブタストーカー女忍者やらなんやらが脇をがっちり固めてやがんだよ!!
それで僕以外誰もツッコミ入れなかったりするんですけど!
でもって人の話ロクに聞かないんだよォォォ! 自分がやりたいボケをかまし続けやがんだよォォォ!」

「聞かせる努力をしましたか! あなたはちゃんと!!」

「次から次へと畳み掛けるボケにツッコミを入れるのが限界ですけど!!
大体、僕からツッコミを取り除いたら何が残ると思っているんですか!
メガネに存在感で負けそうになっているこの僕がぁぁぁ!!!」

「そこ認めんのね」と小町がこっそり言ったのは秘密だ。

「つまり、あなたは人の話を遮るツッコミにこだわり過ぎてます。そこを改めなさい」

「できるかぁぁぁ!!!
ツッコミとメガネをなくしたら単なるモブの完成ですよ!! 単なる通行人Aの完成ですよ!!
そーなったらどうしてくれるんですか!!!
登場回数トップのモブになれと言うんですかァァァ!!!
そーなったら人気投票連続8位どころの騒ぎじゃなくなるんですけど!!
昆布一枚分の戦闘力どころかとろろ昆布1グラム分の戦闘力とか言われそうなんですけど!!
つーか、レギュラーで人気が三連続8位ってなんだよぉぉぉ!!!」

「あなたが何を言っているのか全くわかりません!! モブだの人気投票だの!! 昆布だの!!
そこを改めれば天国の門が開くというのに! それ以上に求めるべき物があると言うんですか!!!」

「人気が欲しいんだよ!! ツッコミとメガネだけでやってきた作者認定の地味キャラでも欲しいんだよぉぉ!!!」

「取りあえずあなたはまず、その態度から直しなさい!!
大人しく私からのお仕置きを受ける、それが今あなたに出来る善行です!!」

大量の弾幕が新八を取り囲む。

「え、あ、ちょ……すんませんで……、うああああぁぁぁぁああああ……」

お仕置きを喰らっている新八を横目に小町が言う。

「映姫様にここまで言い返した人は始めてだよ……。映姫様よりしゃべっていたし……。
まさか、あの世界の人たちがみんなあんな人ってことないよねぇ。昆布一枚分の戦闘力とかなんとか。うん」

数日後。

「誰がサングラス掛け台だぁぁぁ! ってなんでサングラスが歩いて地獄に行くんだぁぁぁ!!」

結構高めのサングラスをかけたみすぼらしい服の男が叫ぶ。そうマダオだ。

「あんまりにも長く使われて妖怪化しちゃって……。こないだも同じ事言ったなぁ。
メガネと人の両方が本体化ってあの世界で何があるんだか。
あ、ちなみにメガネはみんなあんな声だから」

「負けそうだぁぁ! あんな渡哲也の声ですごまれたら俺、本体の座譲っちゃうぅぅぅ!
サングラスが昆布100枚分の戦闘力なのはそーゆー事だからかぁぁぁ!
俺の戦闘力昆布一枚分なのも無理はねぇぇぇ!」

「あんたの世界の昆布ってなんなの?」

壇上から映姫がマダオにしゃべりかける。

「いいですか、あなた。あなたはそう、運が悪すぎる。若干の同情の余地があります」

「って、あんた何? 誰? 偉そうだけどお嬢ちゃん。危ないから降りてきなさいっての」

「あ、ヤバ……」

映姫の額に血管が浮き出る。

「……わかりました。あなたにとっての善行、それは私からの罰を受ける事です!!」

弾幕がマダオを取り囲んだ。

「え……ちょ……、俺の出番終わりィィィ?」



「全く、どうなっているのですか。あの世界の者は。常識が通じません。
幻想郷にあの世界へ歪みの穴が出来て以来、あの世界から迷い込んで来る者がいます。
どうも法則などが違う様ですし。あの世界では亡くなった者がどうなるか調べてきましたか?」

「あ、ええ。……なんか成仏して終わり、みたいです。かなり雑に終わりますね。
だからこっちに来る者がいるのではないかと」

「それでいいとはどう言う考えなのですか!! 最後に自らの行いを悔い改めてこその、生、なのではないですか!!」

「あたいに言われましても……。でも、外の世界に似た物や全然見たことの無い物が混ざって面白いですよ。様々な姿の異星人までいますし。
幻想郷の者も結構入ってますし、一度行かれてみてはどうかと」
「……お酒も美味しそうですね」

「ええ! 色んなお酒に見たことのないつまみがですね! キューとやるとたまらな……あ」

「だから! あれほど! 勤務中はお酒を飲むなと! あの世界について調べるのも仕事だと言ったではないですか!!!」

 ガミガミが続き、よくわからない世界の変な人間が来た是非曲直庁のこの場面だけはかわらなかった。





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