“いーち”
新撰組の屯所の中で、バズーカの弾が俺の方へ向かってきた。
命中、爆破。
こんな人を驚かせ、かつ迷惑な事をするのは一人しかいない。
「沖田ァァァ!! 何しやがんだテメェェェェェ!!!」
いない。
いつもなら澄ました顔で、「土方さん命貰いまさぁ」とか言ってさらにもう一発撃ってきそうなもんだが。
大体、バズーカが飛んできた方には人の気配すらない。
「何だってんだ」
何気なしに、煙草をくわえ、火をつけようとした時だ。
俺は突如として泡を吹き、意識を失った。
“成〜功♪ 永琳の薬剤庫から栄養剤の原液を持ち出したかいがあったよ”
泡を吹いて倒れていた俺は、くわえていた煙草の味を思い出す。
「いつだったかのアメ玉の味じゃねぇか!!」
そうだ、確か沖田の野郎が、落としいた穴を掘っていた兎耳の女の子から貰ったとか言っていた、アメ玉状の栄養剤とやらだ。
それの味を濃くした感じだ。
 そして改めてくわえた煙草も同じ味がして、再び泡を吹いて倒れた。
“あれ? この人バカ?”
“脳みその代わりにマヨネーズを搭載しているからねぃ” 

 くそ、何があると言うんだ。
沖田の奴の悪ふざけだと思うが………。
「あ、土方さん。チワス」
すると山崎が歩いてきた。
相も変わらず、あんぱんにかぶりつている。
しかし、本当に好きでもないのか?
取り憑かれたように食ってたりするんだが。
「あ、お疲れっす。土方さん」
また山崎が歩いてきた。
相も変わらずあんぱんにかぶりついている。ちょっと待て。
「こんちわっす。土方さん」
「チャース。土方さん」
相も変わらずあんぱんにかぶりついている山崎が、二人歩いてきた。
待てよ、オイ!!
何? あんぱん食い過ぎて増殖したっつーのか!?
「チワース。土方さん」と山崎。
「こんちゃーす土方さん」とやっぱり山崎。
「チャース。土方さん」とさらに山崎。
ロビーに足を入れると、あんぱんを手に、あんぱんにかぶりついている山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎山崎。
「おう、トシ。このあんぱんウメーぞ」
と、肩を叩いてきた山崎。
落ち着け、落ち着くんだ。
この声と態度、口調は近藤さんだ。
「こ、近藤さんですか?」
「ん、どーした? 顔色わりーぞ。何でかあんぱんの差し入れが大量に来てな」
と、あんぱんを完食した。
山崎の顔の向こうにうっすらと近藤さんが見えてくる。
あんぱんを食べると山崎に見えると言うのか?
「ん、食わねーのか? んじゃ、貰うぞ」
再び近藤さんはあんぱんを口にし、山崎以外の何者でもなくなった。
“こいつぁ、一体どーゆうことでぃ?”
“私の正体をわからなくさせる能力の結果よ。
対象の形や音と言った情報が奪われて、行動だけが残る。そこから行動から自分自身の知識から勝手に補完しているのよ。
つまり、あんぱんを食べる事が、あの山崎って人を連想させて、あんぱんを食べている人が山崎って人の姿に見えるわけ”
“なるほど。どーりで俺にも山崎だらけのカオスな光景に見える訳だねぇい”

 マジで一体何がどーなってやがる。
こんな事があってたまるか。
 と、向こうから歩いてきた奴と肩がぶつかった。
「オウ。すまねーな」と、土方がマヨネーズをゴミ箱袋に入れて歩いてきた。
って、俺ェェエエエエェエエ!!!
その俺は、マヨネーズをゴミ箱に捨てた。
「土方さんがマヨネーズを捨てたァァァァァ!!」
「マジでかよ!!」
「土方さんが?!!」
と山崎たち。
「マヨネーズゥ? 卒業だそんなもん。ガキじゃねーんだよ」
と、もう一人の俺。
「テメェェ!! 誰だァァァ!!」
と俺。
「ああ? テメーこそ誰だ? 俺みてーなナリしやがって」
「それはそっちの台詞だぁぁあ!!」
「え、土方さんが二人?」
「でもマヨラーじゃない方が本物じゃね? むしろそうであって欲しくね?」
「つーことで、ニュー土方さんお願いします」
と山崎たち。
「テメェーらァァァ!!」
「おぬしはもう少し嗜好について考えた方が良くはないかの?」
「うるせぇ! マヨネーズは人類の魂だぁぁぁ!!」
そう叫びつつ斬りかかると、もう一人の俺は、木の葉になって消えた。
まるで狸に化かされたように。

 マヨネーズを回収し、ロッカーへ向かう。
よってたかってはめようとしているにしか思えない。
沖田が絡んでいるにしても、奴の能力を超えている。
ロッカーの前に足を止めようとした時だった。
突如として床が抜けた。
“よし、引っかかった。……って、あれ?”
“サニー、まずくない?”
“人が一人見えなくなるほど深いって聞いてないわよ。あの二人どれだけ深く掘ったのよ。沖田って人、上からバズーカとか言う弾幕出す武器で狙おうとしているし”
「沖田ァァァァァ!! テメェ! いるんだろぉぉぉぉおおお!! どこだぁぁぁ!!!」
“あ、出てきた。頭から血出しているけど”

 マジで一体何なんだ。
沖田の野郎以外にこんな事をする奴はいない。
だが、明らかに奴の一人の仕業じゃない。しかも姿を見せない。
さっき、ロッカーの前に穴はなかった。だが、今は暗い穴が口を開けている。
バズーカを撃ってきた以外、煙草があのアメの味しかしないのも、山崎が大量発生したのも、俺の偽物が出てきたのも、変だ。
何か、そう何かだ。
“すごい目でこっち見ているよ。”
“まさか気づいた?”
“サニーもルナも、光曲げたり、音を消したりしているよね”
“スター、あんたも気配消しているよね?”
俺は一気に駆け、虚空を掴む。いや、何かを捕まえた。
両手合わせて子供三人分の重さだ。
“え、嘘!!”
“捕まった?”
“ど、どーしよ?”
「テメェらか! 何かわけわかんねーことしやがった奴ぁ! 姿見せろぉぉぉ!!」
すると子供位の背丈の女の子が現れた。
「ごめんなさい〜」
「まさか捕まっちゃうとは………」
「許して〜」
ただ、三人とも透明な羽のような物を背にしていた。
「あーあ。見つかっちゃった」
と、ピンク色の服を着た服の兎耳の子。
「気持ちいいくらいに引っかかってくれたけどね」
と、黒い服に左に赤い鎌のような物と右に青い矢印のような物を三本ずつ背にしている少女。
「まあ、潮時かの。目的は達成できたであろ」
と、頭に木の葉、丸メガネに大きな縞模様のしっぽの女。
「もうちっとやりたかったけどねぃ」
そう、言いつつ沖田。テメェェェ!!!!
「待って下さいや。理由があるんでさぁ」
「ごめんなさい〜……。私のせいで………」
そう、から傘おばけみたいな変な傘を手にした左右で目の色の違う女の子が出てきた。
「この子のために土方さんを驚かさないといけなかったんでさぁ」

 なんでもこの女の子、多々良小傘という天人は「人の心を食う」と言う。
と言っても人を驚かすことらしいのだが。
人を驚かす事でエネルギーを得ると言うよくわからない生態をしているらしい。
 幻想郷という星でもう誰も驚いてくれなくなって地球に来たのだが、よりによって沖田を最初のターゲットにしてしまった。
このドS王子が驚く訳もなく返り討ちに遭いひどい事になったのだが
、エネルギーを得る事ができず、餓死しそうなこの子のために最近仲良くなった兎耳のてゐとかいう子に声を掛け、そこからサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアという透明な羽の三人組、黒服のよくわからない物を背にしている封獣ぬえ、木の葉を頭に乗せている二ツ岩マミゾウが集められ、俺をハメた、と言う事らしい。
 ちなみに役割は、企画とバズーカと穴掘りが沖田。
例の栄養剤と穴掘りがてゐ。
姿と音を消し、俺を探知した上に穴を隠したのが三人組。
山崎を大量発生させたのが、ぬえ。
偽物の俺に化けて、マヨネーズを捨てたのが、マミゾウ。
「ここまで徹底的にやってしまうとは思わなくて………ごめんなさい」
 無理もない。ここまで性格崩壊したドS野郎は宇宙広しといえど、コイツと糖尿病寸前の銀髪くらいだろう。
「ったく、そーゆー事情ならしかたねーところもあるけどよ。次からはもう少し迷惑にならないようにしな。あんにゃろうに頼むとかはなしにしてな」
「ありがとうございま『驚府 ゲリラ台風』」

「え、ここでスペル使う?」
「な、なんで?」
「びっくりした……」
と妖精三人組を尻目に。
「成功だねぃ。やりゃーできるじゃねぇか」
沖田が言う。
「いいんですか? この人瞳孔開いて微動だにしませんよ」
弾幕を張り、土方を吹き飛ばした小傘が困惑して言う。
「奇襲が最も人を驚かす事だろーよ。
大体こんにゃろうはマヨラー星人つって、マヨネーズお供えしている限り不死の存在だしねぇい」
「そんな蓬莱の薬やだなぁ」
と、てゐが言う。
「でも、奇襲が驚くのは確かだね。正直、今一番驚いた」
「わしも驚いた。この方向で考えた方がよいかもしれぬの」
「つーことでしばらくは大丈夫だろーよ。どーしよーもなくなったらマヨラー並みに良い反応してくれる旦那を紹介すっからよ」
「はい! ありがとうございます!」
小傘の元気な返事を聞くやいなや、沖田はマヨネーズを取り出す。
「おら、成仏しろよ」
土方の顔にマヨネーズを垂らした。
「てめぇえらぁぁぁぁああ!! マヨネーズを無駄にするなぁあああ!!!」
速効復活した土方、蜘蛛の子を散らした様に逃走するいたずらっ子を追いかけ回したのは言うまでもない。



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