土樹良也と巨乳剣士

第三話 巨乳剣士が(今度こそ)幻想入り




 いつも通りの境界を超える感覚がして、僕は目を開ける。
 視界に入るのは博麗神社の日常。霊夢が縁側でお茶を飲み、その隣で魔理沙と萃香が昼寝をしていた。
 僕は自分の隣に目を向ける。すぐ隣、肩がぶつかる程近くに、僕とほとんど背丈が変わらない楓がそこにいた。
 楓は物珍しそうに辺りを見回している。

「ここが幻想郷か……。うん、いい香りだ。L○Lの匂いがする」
「300年近く生きてるのに俗世に染まってるなぁ、ホントに」
「言っただろ? 私はマンガやアニメは好きだ。面白いからな。あと、ヱ○ァの最終章のDVD出たらぜひ買ってきてくれ」

 はいはい、分かりましたよ。
 それはさておき、どうやら気に入ってくれたみたいだ。楽しそうな目をあちらこちらに向けている楓の姿を見て、僕は自ずと顔が綻ぶ。
 そんな僕たちに霊夢が声をかける。

「いらっしゃい良也さん。隣の袴女性さんはどちらさまで?」
「ああ、紹介するよ。彼女は柳場楓。今日から幻想郷にお世話になるってさ」

 ふぅん、と言いながら霊夢は湯呑を縁側に置き、楓に歩み寄る。

「……楓、ねぇ。あなた、嫌な感じがするわ」
「流石、感がいいな、博麗の巫女。昔のやつもそんなこと言ってたっけ」

 霊夢が見上げる形で楓を睨み、楓が見下ろす形で笑みを浮かべる。
 止めてくれよ、こんな空気……。どうしてこうも幻想郷の管理者と楓は険悪ムードなんだ!?

 そんな僕の様子を脇目に見たからかどうか分からないが、霊夢が表情を和らげる。

「まあいいわ。紫の言葉を用いるなら、『幻想郷は何でも受け入れる』。とりあえず、ようこそこの世の楽園へ。第……何代だったかしら? 別に構わないか。私は博麗霊夢。よろしく」
「ああ、よろしく頼む」

 どうやら一触即発の雰囲気は免れたようだ。
 これで僕の平穏が保たれた、と思ったのだが――

「そうそう。今の幻想郷には『スペルカードルール』というのがあるようだな。どうするのかご教授願えるかな」
「あら、そう言って簡単に教えるとでも? 教えて欲しいのなら、お賽銭箱はあっちよ」
「残念。私はまだここのお金を持っていない。でもご教授願いたいから手合わせを願おうか」
「つまり、決闘を挑むのね。もちろん受けて立つわ。勝負を申し込まれたら断らないで叩きのめすのが博麗の巫女よ」
「では、いざ参ろう」

 突然博麗神社上空で始まった、戦闘狂2人の弾幕勝負。
 その轟音で跳ね起きた魔理沙も二人の勝負を見るなり「私を忘れてもらっちゃいけないぜ!」と叫んでホウキを掴んで飛び出し、三つ巴の戦いになる。
 ちなみに萃香も目を覚まし、彼女は3人の勝負を酒の肴に杯を傾けていた。

「呑む?」
「いただきます」






 勝負は10分程度で終わった。もちろん勝者は霊夢だ。

「いやはや、流石は博麗の巫女だな。私でも勝てん」
「よく言うわ。どうせ本気なんて出してないんでしょ?」

 ジト目で霊夢は言う。
 霊夢の言うとおり、ルール上では霊夢の完勝だが楓は傷一つどころか汗すらかいていない。
 対する霊夢も無傷だが、魔理沙は服に焦げ目がついていた。

「楓っていってたけか? 何の妖怪だ?」

 魔理沙が問う。

「妖怪というより、人造人間が一番近いかな」
「人造人間って何だ?」
「『ヤメロショッカー!!』ってされた奴のことだ」

 いや楓、この幻想郷にその台詞分かるやつなんて滅多にいないぞ。……東風谷たちを除いて。
 案の定魔理沙は首を傾げている。

「冗談抜きで言えば、自分の体を自分自身で改造して強化し、果たして人外の域まで達したってことだ」
「酔狂な真似をするねぇ」

 楓と魔理沙の会話に萃香が入る。

「楓、だったね。人外になってもう何年だい?」
「女性に歳を訊くのは失礼じゃないか?」
「承知で訊いてるよ」
「まあ人間辞めた身、気にしてないさ。この体になってもうかれこれ200年になるかな」

 魔理沙は楓の台詞に驚き、霊夢はさも興味がなさそうな顔で湯呑をすすり、萃香はしばらく楓を見据えて口を開く。

「あんた、あたしと力比べしないかい? スペルカード抜きの拳で」

 突拍子もない萃香の言葉に僕は飲んでいたお酒を吹き出してしまった。
 魔理沙なんて唖然としてる。霊夢は――平素な顔をしているがどうやら何か思っているようだ。僕に心理学の心得なんて無いし、何を考えているかは知らないが。

 だが楓はその申し出を却下した。

「悪いが、分の悪い戦いはしない。それにそこの巫女殿の剣幕が怖いからな」
「へぇ、逃げるのかい?」
「私とお前とがぶつかったら山の1つ2つは確実に消えるぞ。それに、これっぽちも殺気を出さないじゃないか、『酒呑童子』殿」

 ――くっ、

「あはははははははっ! あんた、やっぱり面白いよ! 試した甲斐があったね。それにあたしの正体を見破るとは……気に入ったよ」
「それはどうも」
「だがここでは『伊吹萃香』だから、あしからず」

 本日何度目か分からない拍子抜け。何なんだこの「一触即発→和解」のエンドレスループは……心臓に悪い。
 魔理沙も呆れた顔で萃香と楓の二人を眺めていた。
 ふと、魔理沙が僕の方を向き、目が合う。

「良也が連れてきた女のせいで今日は疲れる!」

 僕が悪いのか!? あまりにも理不尽すぎる!! そしてその言い方は色々と語弊を招きかねない!!
 どうにか弁解しようとしたが魔理沙の正拳突きが僕の腹に突き刺さる。

 うん、魔理沙は武道の素質があるな。美鈴に手ほどきしてもらえば化けるぞ。――意識を手放す刹那に僕はそう思ったのだった。






 その後夜になって僕は目を覚ました。
 その時霊夢に聞いたことだが、楓は魔理沙の案内で人里に向かい、どうにか人里の外れの空家を暫くの寝床として使うことになったとか。
 突然やってきた外の世界の実力者に慧音さんは警戒感をあらわにしていたが、魔理沙の説得と慧音さんの寺子屋を手伝うということで話は丸く収まったらしい。なんとか楓はこの幻想郷でやっていけそうだ。


 そして晩御飯を私が作る羽目になった、などと言って霊夢に蹴られたのは言うまでもない。













あとがき

 「土樹良也と巨乳剣士」シリーズの第3話です。
 今思えばこの題名も本当に適当ですねw
 名前のセンスとか無いからこうなってしまいましたw これからも思いつかないだろうからこれからもこのままの題名で行こうと思います(今更変えてもね、うん)

 さて、自分がこの「東方奇縁譚」と出会って、もうすぐでまる1年経とうとしています。
 また、この「久遠天鈴」ももうすぐ5周年という節目の時期ですね。
 この先も良也を中心とした物語が続いていくように、この先も多くの人が良也を中心とした物語を読んでいただけるように、と願いを込めて今回はこの辺りで筆を置きたいと思います。

 最後に、久櫛さん、これからも面白いストーリーを楽しみにしています。



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