「ん〜……なんか、変な感じねぇ」
 伸びをしつつ、私は自分の姿を確認する。今着ているのは過去の私が来ていた巫女服だ。
懐かしくはあるんだけど、なぜか着慣れてない感じがする。まぁ、昨日までは普通の巫女服だったしね。
それで違和感を感じるのかも。
「おはよう」
「あ、おはよ……う?」
 居間に来て、お母さんと挨拶するんだけど……なんか固まってる?
「あ、あの霊夢……その服は?」
「あ、これ? 過去の私が着ていた物だけど、何か変かな?」
「えっと、その……に、似合ってる……わよ?」
 だったら、なんで疑問系なのよ? 後、お父さんと詠奈も同じ反応だった。
詠奈にいたっては「昔の霊夢様って……」と、なぜか落ち込んでたし。そういや、詠奈は過去の私に憧れてたっけ。
それはそれとして、今日は休日。早速レミリアの所に向かうつもりなんだけど、2人とも遅いわね。
「お〜い」
「ごめんなさい。遅れました」
 あ、来た来た。って、あれ?
「あれ、理斗じゃない? どうしたの?」
 詠奈、いつの間にいたのよ?
それはそれとして、確かに魔理沙の後ろにしがみつきながら箒にまたがってるのは魔理沙の弟の理斗だった。
表情見てるとおっかなびっくりって所かしら?
「わりぃわりぃ。理斗の奴が付いてくってうるさくてさ」
 なんて、頭を掻きながら笑ってる魔理沙の服装は過去に着ていた物だ。
「なんで来たのよ?」
「だってさぁ……昨日は大騒ぎだったんだぞ? 姉ちゃんがいきなり魔法使えるようになって、母ちゃん達驚いてたし。
今日もこんなカッコしてさ……気になるじゃんか?」
「もしかして、話してないの?」
「いやぁ〜……めんどくさかったんで」
 詠奈に肩を落としながら説明する理斗。それを聞いて問い掛けたら魔理沙は笑ってるし。
まったく、説明くらいはしときなさいよ。これは後で問題になりそうね。
「それじゃ、早速レミリアの所に行くか」
「そうね。さっさと行きましょ」
「あ、えっと……私も行っちゃ……ダメ?」
 魔理沙にうなずくと詠奈がそんなことを聞いてきた。なんか、もじもじしてるし。
「どうする?」
「別にいいんじゃないんですか? 私達も会って話をするだけですし」
「ホント? やった〜!」
 早苗がうなずいてくれたんで詠奈は喜んじゃってるわねぇ〜。
でも、どうやって連れて行こうかしら? 良也さんがいれば楽なんだけど。良也さんの能力なら、ある程度重さを軽減出来るし。
話し合った結果、私と早苗が詠奈を抱えて連れて行くことになった。


第五章 『紅魔館』


「うっわ〜。気持ちいい〜」
 なんて、詠奈は嬉しそうにはしゃいでる。私達は今レミリアの屋敷に向かって飛んでる最中だ。
でも、空を飛ぶ。過去の私はそんな気分は無かったけど、今は詠奈の気持ちが少しわかるかも。
なにしろ、継承するまでは飛べなかったしね。
「おいおい、そんなにしがみつくと飛びにくいんだけど?」
「う、うっさい!」
 魔理沙の方は理斗がおっかなびっくりって所かしら? ま、あっちも大丈夫でしょ。
「おや、珍しいね? 空飛ぶ人間なんて」
 なんて、声が聞こえたんで私達は思わず止まってしまう。なんだろうと思ったら、そこにいたのは2人の少女だった。
1人は背は私より少し高いくらいかな? 青く長い髪に背中には氷みたいな6枚の翼って……
「もしかして、チルノか?」
「ん? あたいのこと知ってるのかい? って、あれ? どっかで見たような……」
 魔理沙の言葉にチルノは首をかしげてるけど。あの『博麗大異変』は元々いた妖怪や妖精にも少なからず影響を与えていた。
チルノもその1人(1匹って言った方がいいかしら?)なのよね。今みたいな姿になって、大暴れして……
そのおかげでとんでもなく手間を取らされちゃったわね。力も強くなったこともあってだけど。
「もしかして、良也さんがおっしゃってた方ですか?」
「え? 大ちゃん知ってるの?」
 もう1人の少女が問い掛けてくるけど、チルノのあの様子だと忘れてるわね。あれ……
でも、もう1人は誰だろ? チルノと同じくらいだけど、なんか見かけた気があるような。
「もう、昨日良也さんが言ってたでしょ? 今日、紅魔館に向かう人がいるって」
「ああ、そういやそうだっけ?」
 もう1人の少女……というよりは妖精よね、あれ? その妖精に言われて、チルノも思い出したように手をポンと叩いてる。
どうやら、良也さんが私達が来ることを見越して、この2人に伝えておいてくれたらしい。
「じゃあ、行ってもいいのかしら?」
「あ、はい。良也さんによろしくお伝えください」
「はい、確かに伝えますね」
 妖精の返事に早苗が頭を下げると、私達は再び紅魔館へと向かい飛んでいく。
「でもさぁ、あの人達どこかで見たことあるんだよねぇ〜」
「うん、私も。どこでだったかしら?」
 この2人が事実に気付くのはもうちょっと後だったみたい。


 集落が見えてきて、その少し離れた所に一際目立つ屋敷が見えてきた。
あれが紅魔館。今の私でも何度か見たことはあるんだけど、なんか懐かしい感じがする。
 なんてことを思いながら、私達は門の所で下りて――
「くか〜」
 見事に寝こけてる門番を見た。
「え? この人……なに?」
「あ〜、相変わらずだな〜。中国も」
 理斗が門番を見て戸惑ってる横で魔理沙はケタケタと笑ってる。私も過去の方でたまに見てはいるけど……仕事する気あるのかしら?
「あ、あの……起きてください」
「ん〜むにゃむにゃ……は!? あ、はわわわ!? ね、寝てませんよ、私!! 瞑想です、瞑想!! って、ありゃ?」
 早苗に揺さぶられて目を覚ます門番こと中国……だったっけ? この人の名前って? なんか、違った気がするんだけど――
「あ、あれ? どちら様ですか?」
「今日、良也様からお客様が来ると言われていたでしょう? 忘れてしまったのかしら、美鈴?」
 私達をマジマジと見てくる中国(?)。その背後から別の声が聞こえてきた。あ、そうよ。美鈴よ。……苗字はなんだったかしら?
「あ、咲夜さん!」
 驚く美鈴の横に背後に立っていたのは瀟洒なメイドだった。十六夜 咲夜。そういえば、彼女って――
「久しぶりね。そういえば、体は大丈夫なの?」
「ええ。何度か取り替えることになってしまったけどね」
 なんて、微笑んで返してくる。咲夜はレミリアに仕え続けるために人の体を捨て、人形に自身の魂と能力を移した。
「私はレミリアお嬢様のメイドですので」という彼女。人形の体にしたのは、レミリアも吸血鬼とはいえいずれは朽ち果てる身。
その時は共に……なのだそうだ。ちなみに人形の体といっても見た目は人間にしか見えない。あれってアリスが造ったはず。
でも、魂を人形に宿らせるなんてのは私達がやったのと同じくらいの無茶だから……確か、あの時は大騒ぎしたのよね。
「今日は特別な日なので大目に見ますが……今度やったら――」
「は、はい! 紅美鈴、しっかりとお勤めいたします!」
 ナイフをちらつかせる咲夜に美鈴は見事な敬礼をしてみせた。それを見てか、咲夜はナイフをしまってこちらに顔を向け――
「レミリアお嬢様がお待ちですので、ご案内いたします。所でそのお二方は?」
「ああ、こっちは詠奈っていって私の妹。そっちは魔理沙の弟で理斗よ」
「ど、どうも」
「よ、よろしく……」
 私の紹介に2人が頭を下げる。理斗の顔が若干赤いのは言わない方がいいのかしらね?
「そうでしたか。では、案内いたします」
 微笑みながら案内を開始する咲夜に私達は付いていく。理斗が見とれていたように見えたのは内緒にしといた方がいいかしら?

 で、今は咲夜に案内されながら紅魔館の中を歩いている所。にしても――
「詠奈。緊張しすぎよ」
「だ、だだ、だって……あ、あの『博麗大異変』を解決した1人……
更にはこの一帯を治めてる領主のレミリア・スカーレット様にお会いするのよ……緊張したってしょうがないじゃない……」
 まったく、詠奈ってばガチガチじゃないの。まぁ、この子は『博麗大異変』の話が好きだし、それに出てくる人達を尊敬もしてたしね。
それは別にいいんだけど、私を見る目がなんか落胆に見えるのは気のせいかしら?
ちなみに理斗も詠奈ほどじゃないけど緊張してるみたい。ただ、屋敷の中を物珍しそうに見ている所を見るとまだ余裕はあるみたいね。
 なんてことを考えてたら、咲夜がドアの手前で立ち止まっていた。
「お嬢様。霊夢様達をお連れしました」
「そう、お入りなさい」
 その返事に咲夜はドアを開ける。勧められるままに中に入ると、そこには4人の姿があった。
まずは良也さん。優雅に紅茶を飲んでいるレミリアとフランに混じって椅子に座ってる。
で、フランの後ろに控えるように立っているのは妖精メイドかしら?
咲夜と同じくらいの背に翡翠色の髪。その髪を頭の後ろをお団子みたく結ってるけど。
顔付きも咲夜に似た感じがする。ただ、この子はメガネを掛けてるけどね。そんな妖精メイドは咲夜と同じメイド服を着てる。
「お久しぶりね、霊夢」
「久しぶり。ところでそっちのメイドは? 確か、初めてよね?」
「はい、フランドール様付きのメイドで真那と申します。以後、お見知りおきを」
 レミリアと挨拶した後、そのメイドこと真那は優雅な仕草で頭を下げてきた。
しっかし、フラン付きのメイドさんね〜。
「フランもだいぶ様になってきたんじゃないの?」
「あら、淑女の嗜みとして当然じゃなくて?」
 な〜んて、フランは得意げに笑ってみせる。フランがこうまで落ち着いた様子を見せるのはひとえに良也さんのおかげ――
というのはレミリアの言葉なんだけどね。良也さんは謙遜してるけど、私もそうだと思うわ。
過去で最後に見た時はまだわがまま娘って感じだったけど、今はもうお嬢様って感じよね〜。
あ〜、時の流れってのを感じるわ。こういうのを見てると……
 そうそう、ちょっと補足になるけど、あの異変の後に妖精メイドの質が上がったって咲夜が言ってたっけ。
おかげで仕事が楽になったって喜んでたような……たぶん、信仰心の影響でそうなったんじゃないかってパチェリーが話してたわね。
そんな妖精メイドの中からフラン付きに選ばれたんだから、彼女って咲夜と同じくらいに優秀なのかも。
「ところでその2人はどちら様かしら?」
「は、はは、はい! わ、私は……霊夢の妹の博麗 詠奈とい、いいます! ほ、本日は、レミリア様に会えたことに、こうぇいに思い――」
「あ、お、俺は魔理沙の弟の……霧雨 理斗……です」
 レミリアに聞かれて、自己紹介するのはいいけど……詠奈、緊張しすぎて噛んだわね。まったく、理斗を見習いなさい。
理斗もガチガチに固まってるけど。
「面白い子達ね。後で血を味見させてもらおうかしら?」
「頼むから、身内から血を吸おうとしないでね」
「あの、僕は?」
 なんか妖艶な顔付きで緊張してる2人をレミリアは見てた。フランも同じ顔だったけど。
とりあえず、待ったをかけておくけど、良也さんは自分を指差して聞いてくる。それに私は笑顔を向け――
「もう手遅れじゃない」
「なにが!?」
 心底驚いてたけど事実じゃない? レミリアとフランも同意してくれてるし。
「それはそれとして……今度起きる異変について、何かわかっていないのですか?」
「残念だけど、紫から聞いている以上のことはわかってないわ。ただ……」
 苦笑する早苗にレミリアはどこか悔しさを滲ませた顔をしている。彼女としてはプライドが傷ついたってところかしら?
「これは私の勘なんだけど、どこか作為的に思えるのよ」
「それって……」
 それを聞いて、思わずその先を言いそうになった。
レミリアの能力がどこまでわかるかは知らないけど、何もわからないってことはまず無いはずだ。
良也さんみたく、能力とかで遮っているならともかく……でも、そんなこと出来る人と言ったら、良也さん以外では紫かしら?
でも、ああみえて紫は幻想郷を愛している。異変後に行った改革も彼女としては苦渋の決断だってのは見てわかったしね。
良也さんは……性格的にそういうのをやりそうにないか。
ともかく、レミリアの能力で見えないとなると、能力か何かで隠されてると考えてもおかしくはないわけね。
「私達はその辺りのことを調べてみるつもりよ。それであなた達はどうするのかしら?」
「ん〜どうしようかしらね?」
「私達もお手伝いしたいですが、学校がありますし」
 レミリアの聞かれて考えてたら、早苗がそんなこと言うので思い出した。そうよ、私学生じゃない。
過去の霊夢を継承したせいか、そのこと忘れてたわ。
「ま、そこら辺は僕達が何とかするしかないんじゃないか?」
「まぁ、そうね。それでこの後はどうするの?」
「あ、ちょっと輝夜のとこにも顔を見せるつもりだから、これから行こうと思ってるけど」
「まったく。少しはゆっくりしていけばいいのに」
 良也さんにうなずくレミリアに答えると、フランが不満そうな顔をする。いや、流石にすぐには行かないけどね。
私も少しは話していくつもりだし。
「ん? なんでまた?」
「ま、あっちにも顔を出しておこうかなって思ってね」
 良也さんにはそう言っておくけど、本当の目的を話したら怒られそうなのでそれは言わない。
あ、そういえば輝夜といえば――
「そういえば、あの子は輝夜のとこにまだいるの?」
「ああ、鈴仙と仲良くやってるよ」
 聞かれたことにうなずく良也さん。そっか、あの子はいたか。いや、当たり前か。あの子も蓬莱人だし。
でも、あの子。ちょっと苦手なのよね。まぁ、大丈夫だと……思いたいわ。
「なんなら、僕も一緒に行こうか?」
「お願い。あの子、苦手なのよ」
 良也さんにお願いのポーズをする私。よく見れば、魔理沙と早苗も同じ様子ね。
まぁ、魔理沙に早苗もあの子のことは苦手だし、しょうがないかも。


 それから出されたお茶を飲みつつ、レミリア達と会話を楽しんでいた。
その間中、詠奈と理斗は緊張しっぱなしだったようだけどね。頃合を見て、私達は紅魔館を去ろうと思ったんだけど――
「そうだ。パチェリーにのとこに寄ってもいいか? 挨拶しときたいしな」
 なんて、魔理沙が満面の笑みで言ってくる。まさか……いや、まさかじゃないわね。あの笑顔を見てると。
「本当に挨拶だけか?」
「なんだよ? それ以外に何があるっていうんだ? まぁ、ちょっと本を借りるけどさ」
 良也さんにも笑顔で答える魔理沙。やっぱりね、と思ったのは私だけじゃないはずだ。
「まったく、ほどほどにしとけよ?」
「大丈夫、まかせとけって」
 魔理沙、少なくともその返事はおかしいと思うわよ? 良也さんも呆れてるじゃないの。
「どうかしたの?」
「すぐにわかるわ」
 詠奈にそう言っておく。まぁ、派手なことにはならないと……いいわねぇ。

「うっわぁ……」
 理斗が驚いた顔をしながら見上げてる。詠奈も同じようなもんだけど。
紅魔館にある図書館。私も過去の方でも何度か来たことがあるけど、ここって本当に広いわよね。
「お〜い、パチェリー。本貸してくれぇ〜」
 魔理沙。やっぱりそれが目的よね? 挨拶はそのついでって所かしら?
「久しぶりに来て言うことはそれなの?」
 なんてことを言いつつ、ふよふよと飛んでくるのはパチェリー。その顔はどう見ても呆れている。
隣にいるのは確か小悪魔だっけ? あれ? なんか本を持ってる?
「ははは、いいじゃないか。私とパチェリーの仲だろ?」
「どんな仲なのかしらね? まぁ、いいわ。今はレミィに頼まれて例の異変のことを調べてる最中なの。
暴れられると邪魔だから、こっちで適当に見繕っておいたわ。でも、ちゃんと返しなさいよ?」
「ああ、私が死ぬまでにな」
「あの……なんですか、あれ?」
「いつものこと。まぁ、今日は静かに済んだ方かな?」
 2人のやりとりに理斗が疑問といった顔で指差すけど、良也さんが呆れた様子で答える。
ちなみに詠奈はなんか感激した様子で見てたけど。ま、パチェリーも楽しんでるようだし、別にいいか。


 あとがき
というわけで、レミリア達との再会編でした〜
200年後の変化として、フランの精神的な成長とオリキャラを入れてみました。
なお、オリキャラの元ネタはわかる人はわかると思いますw
あ、チルノと大妖精は成長というよりも博麗大異変の影響を受けた為、作品中のような姿になってます。
中身は……ちょっと成長させたほうがいいだろうか?
さて、次回は永遠亭メンバーとの再会です。更にはあの人も登場。誰かは……わかる人はわかるかも(おい)




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