まぁ、あれだ。馴れ初めって言ってもそんな大したもんじゃない。
あれは異変が解決してからすぐのことだった――


第四章 『蓬莱人の過去』


 異変が解決してすぐに私と魔理沙、早苗は倒れてしまった。
永琳の診断で過労であることがわかり、私達はしばらくの間安静するようにと言われたんだけど……
無茶をしすぎたみたいで体はまったくと言っていいほど動かない。そんな私達を世話してくれたのが良也さんだった。
もちろん、良也さんだけってわけじゃないけどね。永琳もそうだし、妖夢や鈴仙なんかも手伝ってたし。
 でも、ちょっと疑問に思った。異変の時、私は良也さんを盾代わりとか特攻とか、とにかくこき使ってた。
安静にしてた時にひどすぎたかな〜って思ったわね、流石に……なのに、それを気にしてないかのように接してくれた。
なんで? って聞いてみたら、「ほっとくわけにもいかないし、異変じゃ大して役に立ってなかったから、これくらいはしないとな」ですって。
そんなことは無い。と言ったのは早苗だったわね。ま、確かにそうかも。レミリア達に協力してもらえたのも、良也さんが頼みに行ってくれたからだし。
そう考えるとなんか申し訳なくなってきた。でも、体はまだまともに動かないので、良也さんに食べさせてもらったりしたんだけど。
う、体が動けるようになるまでの3日間を思い出したら結構恥ずかしいかも……結構、甘えてたような気がするし。
 で、私達が回復してしばらくした頃、紫によって幻想郷の改革が始まり、私達は忙しい日々を送ることとなり――
それが一段落して、静かな日々が戻った。といっても私達はだけど。レミリアや輝夜なんかは領主になったから、そのことでまだ忙しくしてたしね。
それに良也さんはそんなみんなの橋渡し役として動くことにもなっていた。みんなと顔見知りということで紫に頼まれたのよね。
そのせいで宴会はしばらく行われることも無く……良也さんがいない時間が増えた。
 その時になって寂しいと感じたわね。魔理沙や早苗とかは来るんだけど、良く来てた人が来ないってだけでこんなに寂しいと思うとは思わなかった。
それに良也さんがいないというのは……なんというか、寂しいというよりも……ツライ。そんな感じだった。
だからかな? あの時、自覚は無かったけど良也さんに甘えていたのは。ま、それは魔理沙や早苗も同じだったけどね。
 それからまたしばらくして幻想郷の改革も一段落し、またいつものように宴会が行われるようになった。
それで実感したのよねぇ。人との付き合いとの大切さってのを。まぁ、大半は人じゃないけど、そこは無視の方向で。
良也さんもレミリア達の橋渡し役を続けることになったけど、余裕が出来たみたいで一緒にいられる時間が増えたのは嬉しかったな。
「そういや、まだレミリア達の所に行ってるの?」
「まぁな。それが今のお仕事みたいなもんだし」
 どうやら、今も同じ事をしてるみたいね。ん? そういえば――
「そういえば、今はどのような生活をなされてるんですか?」
「あ〜……なんというか、あちこちで泊めてもらってるんだよ。僕、家持ってないし」
 早苗の疑問に良也さんはなんでもないように言うんだけど、私達はちょっと驚いてたわね。
これは後になって知ったんだけど私達が亡くなった後、良也さんは博麗神社を出てレミリア達の所にしか姿を見せないようになったみたい。
理由は……後で話すけど、人里に行くくらいいいじゃないと思って……私はある決意をした。同じ決意を魔理沙と早苗もしたようだけど。
 それはそれとしてまたしばらく経ったある日、私は紫に身を固めたら? と言われた。
年頃なんだし、博麗の巫女の跡継ぎも必要だし、なんて理由でね。「じゃあ、良也さんでいいわ」なんて、あの時はろくに考えずに言ったのよね。
それで慌て出したのは良也さんだった。お茶を噴出すほど慌てた姿は今でも印象に残ってるわ。
私としてはいつも一緒にいたからというのはあの時の理由なんだけど、良也さんはそんなに簡単に決めるもんじゃ無いって怒ってたわね。珍しく。
でも、最初は怒ってたけど徐々に弱気になっていって、私じゃ嫌なの? って聞いたら、明らかにうろたえてたわね。
 そこからだったかしら? 話がややこしくなったのは。
どこから聞きつけたのか(いや、多分文の仕業なんでしょうけど)魔理沙と早苗もやってきて、結婚するなら私となんて言い出したのよ。
それからは言い争いになって、弾幕ごっこになりかけた。良也さんが止めなきゃ凄いことになってたかもしれないわね。
その後、私達の中は険悪になってしまった。いつも宴会に来てた魔理沙も顔を出さないようになり、早苗も守矢神社に篭ってしまった。
私も神社からあまり出ないようになってしまい、レミリア達に冷やかされても何も言えなかった。
良也さんだけは魔理沙や早苗の所に顔を出しては仲直りするように言っていたんだけど……多分、あのままじゃ出来なかったと思う。
気付いちゃったんだ。いつも良也さんと一緒にいたから……良也さんといつも一緒にいたいって……
良也さん以外の人と一緒になるなんて考えられなかったから……だから、取られたくないと思ってしまった。
でも、それは魔理沙と早苗も同じだった。私達は互いにそのことをどこかでわかってしまって、ケンカしたんだと思う。
だから、あのままじゃ仲直りなんて出来なかったと思う。そんな時だった。紫があんなことを言い出したのは。
「なら、3人一緒ならいいじゃない?」
 あれを聞いた時、私達は呆気に取られ、良也さんも最初はそうだったけどすぐに慌て出したわね。
でも、紫も考えも無しに言ったわけじゃないみたい。なんでも博麗神社と守矢神社の共存は幻想郷をより安定なものに出来るとのこと。
そのため、良也に私と早苗をめとってもらうのが共存の近道なんだそうな。
魔理沙も一緒にしたのは、魔理沙のような魔法使いは本当に稀らしい。というのはアリスやパチェリーの意見みたいだけどね。
そんな魔理沙の力は幻想郷の安定に役立つとの事。それに2つの神社の共存強化にも繋がるとかで、そうして欲しいとのこと。
ただ、これも後になって知ったんだけど、魔理沙の家系はその後魔法使いの素質に恵まれず、実家に吸収される形で一般的な家庭になっちゃったみたい。
 まぁ、最初はそんな理由で結婚出来ないと言っていた良也さんだけど、私達に押し切られる形で一緒になることになったのよ。
「じゃあ、良也さんは……私達の先祖ということですか?」
「あ〜……そういうことに……なるのかな?」
 お父さんが戸惑った顔を向けられた良也さんは頭を掻きながら答えたけど、確かにそうなるのよねぇ。あ、お母さんと詠奈も同じ顔だわ。
「ち、ちょっと待って!? 『博麗大異変』って200年前の話でしょ!? あなたが本当に土樹 良也としても、なんで生きてるのよ!?」
 詠奈が慌てた様子で問い詰めるけど、そういや良也さんが蓬莱人というのは意外に知られてない。
まぁ、良也さんが人里に姿を見せなくなったから、そのことが忘れられていったのかもしれないけど。
「いや、僕って一応蓬莱人……つまり、不老不死なんで」
 良也さんは苦笑しながらそう言うんだけど、家族は呆然としてる。ま、普通は信じられるもんじゃないしね。
でも、詠奈は気付いてないけど、あなた2回ほど良也さんを死なせてるんだけど……これは言わない方がいいわね。
「一応ホントのことだ。良也のおかげで今の博麗と守矢があるのもね」
 今までただじっと話を聞いていた神奈子が笑いながらそういうけど、家族はなんか顔が引き攣ってたわね。
私達は知ってるからそうでもなかったけど、家族には驚くことだったのかもね。
「さてと、私達も戻るわ。早苗はどうするの?」
「あ、えっと……出来れば、今日は先生と一緒に……」
「え〜、私も良也と一緒に寝たいんだけどな」
「いや、待て。その発言は色々とまずいから」
 立ち上がる神奈子に早苗はもじもじしながら答え、魔理沙は羨ましそうな顔をしている。それに良也さんが待ったをかけたけど。
まぁ、気持ちもわからなくもないけどね。詠奈もしっかりと睨んでるし。でも――
「そういえば、良也さんは今日はどこに泊まるの?」
「ん? レミリアの所に泊まらせてもらおうと思ってるけど?」
「そうなんだ。というわけで、2人とも今日は諦めなさい」
 私だって今日は良也さんと一緒になりたいけど、流石に今は無理よね。昔と違って家族がいるんだし。
魔理沙と早苗もそれがわかったみたいで、残念そうにため息吐いてたけど。
「まぁ、しょうがないさ。昔と違って、今は色々とあるしね。それじゃあ、私達も戻るよ」
「ええ。あ、良也さん。レミリアに明日にでも会いに行くって伝えておいて」
「わかった。おっと、忘れる所だった」
 神奈子達が立ち上がった時にそのことを思い出して良也さんに伝えた時、後ろに置いていた包みをテーブルの上に広げる。
そこにあったのは――
「これって」
「おお〜」
「そ、2人の服だ。咲夜さんのおかげで新品同様だぞ」
 私と魔理沙は手に取って、その服を見た。昔の私が来ていた巫女服。なんだか、懐かしさがこみ上げてくる。
魔理沙も昔着ていた服を見ていて同じ気持ちみたいで、明らかに喜んで見えたわね。
「良也、ありがとう!」
「いや、保管してたのは僕じゃないんだけどな」
 魔理沙が良也に抱きついて喜んでるけど、早苗はなんかすっごい顔してるわね。いや、私もかしら?
ふと顔を向けてみたら、詠奈が「いつものお姉ちゃんと違う」なんてぼやいて怖がってたし。それはそれで失礼だけど。
あ、良也さんもこっちに気付いて顔が引き攣ってるわね。安心して、後で我侭を聞いてもらうだけだから。


 夜になり、私は布団の中で今日のことを思い出していた。過去の自分の継承。そして、良也さんや魔理沙、早苗との再会。
色々とあった。でもまぁ、家族が私を見る目が変わっちゃったのは、ちょっと悲しかったかな?
一応、「私は私。いつもと変わらないわよ」なんて、夕食の時に言ってはおいたんだけどね。
にしても……異変か。何が起きるのかわかれば、なんとか出来るんだけどな。今は待つしかないか……
 そこまで考えて、ふと昔のことを思い出す。それは良也さんとの――
あんな想いはもう嫌。例え、それが私にとってほんの一瞬でも、やはり嫌なものは嫌だった。
明日、レミリアの所に行くついでに輝夜の所にも寄っておこう。あそこなら、多分あれがあるはずだから……
あ、でもあの子もいるのかな? 確か、昔の私が亡くなるまでは輝夜のとこにいたけど。
 そんなことを考えながら、私は眠りに付く。その決意を胸に秘めながら――


 あとがき
ども、DRTです。やっとこさ1日目終了です^^;
次回は再会編となります。200年経った今、かつての仲間達はどんな風になっているのか?
それを書いていきたいと思います。そして、霊夢の決意とは? 次回をお楽しみに〜




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