「粗茶ですが……」
「いえいえ、お構いなく」
 お母さんが出したお茶に胡散臭い笑みを向ける紫。まったく、その顔はやめろってのに。ほら、お母さんも詠奈も困ってるじゃないの。
お父さんも嫌なタイミングで戻ってきちゃったもんだから驚いてたし。まぁ、話を聞いてもらわなきゃならないからしょうがないけど。
「さてと……あなた方は200年前に何が起きたのか、ご存知?」
「え? あ……」
「200年前……『博麗大異変』のことですか?」
 紫がいきなりそんなこと聞くもんだからお母さんは戸惑ってたけど、詠奈が代わりに答えてる。でも、顔はなんでそんなことを? といった感じだ。
「ええ、そうよ。でも、何が起きたかは……知ってるかしら?」
「え? え〜と……幻想郷が滅亡しかけた……ですよね?」
「確かに……でも、どうしてそうなったかは知ってるかしら?」
 改めて問われて詠奈は答えるんだけど、紫がしつこくそんなことを聞いてくる。でも、詠奈は困った顔だ。
ま、当然よね。人間達はあの異変がなぜ起きたのか? それを知らないでしょうし。
「さて、今から話すことは他言無用に願います。これから話すのは『博麗大異変』の真相よ」
 唐突に真面目な顔になる紫。それを聞いた私の家族は息を飲んでいた。


第三章 『博麗大異変』


「今から200年前。当時の霊夢は散歩中に暴れている妖精を見つけた。その時は退治してそれで終わり……のはずだった」
 紫の話にその時のことを思い出す。そう、あの時は妖精が暴れてる。それ位にしか思わなかった。でも――
そうではなかった。その妖精は思った以上に力を持っていた。油断していた私は苦戦したものの、なんとか退治に成功した。そこでは――
「けど、その妖精だけではなかった。日が経つごとにそんな妖精が増え出したの」
 そう増えたのだ。しかも数十匹単位で。強いけど退治出来なくもない強さを持つ妖精。でも、それが集団ともなると私だけではどうにもならなかった。
だから、私は魔理沙や早苗にも協力してもらい、良也さんを盾にしながら戦った。戦ったのだけど……
「数は減らなかった。しかも、最悪なことに弱小な妖怪や霊達も強い力を持ち始めた」
 あの時はホント頭がどうにかなりそうだったわ。大したことない妖怪や霊達も強くなって……次第に私達は追い詰められていった。
その時になってやっと紫が動きだした。レイミアや幽々子達が来てくれなきゃ、まず間違いなくやられていたわね。
ともかく、彼女達が来てくれたおかげでなんとかなる。そう思い始めた時、それは起きてしまった。
「この幻想郷を包む結界が壊れ出したの」
「結界がですか!?」
 話を聞いていたお父さんが驚いてる。詠奈とお母さんも同じのようね。でも、当然か。
その昔、紫や力ある妖怪や神様なんかが元々あった結界を更に強く張り直したんだ。それが簡単に壊れるわけがない。
それが当然だと思ってた人達には驚きでしょうね。
 でも、事実は事実だった。このままでは結界が完全に壊れてしまうと判断した私達は、結界の修復組と妖怪や妖精の退治組に別れて事態の収束を図った。
危ない所もあったけどなんとか上手く行き、異変は解決した。妖怪や妖精は大人しくなり、結界も元通りとなった。
「解決後、私達は何が起きたのかを調べ……そして、あまりにも予想外のことが判明したの」
 予想外。それが当然だった私達にとって、その事実に愕然とした。原因は信仰心だった。幻想郷は妖精や妖怪だけでなく色んな神々が存在する。
そんな神々が存在するには信仰心が必要だった。信仰心が神々に力を与え、存在を可能としている。
だから、幻想郷にとっては信仰心はなくてはならないもの。そうでなければ幻想郷が成り立たなくなる。
でも、今回はその信仰心がマイナスにも働いていたことがわかった。信仰心は神々だけでなく妖精や妖怪にも働いてしまったのよね。
信仰心とは何も神々だけのものではない。妖怪や妖精にもある。恐れという形で……
私や魔理沙はそうは思わなかったけど、人里の人達には少なくとも妖精や妖怪は恐れる存在。
そんな思いが少しづつ溜まって形となり、やがてあの異変でそんな妖精や妖怪が現れ出したというわけ。
そして、それは幻想郷のバランスを一気に崩してしまい、その影響で結界が壊れ出してしまったと……
「その事実に私達は気付いてしまった。この異変はいずれまた起きると……」
 紫の話に家族は驚いてるけど、当然といえば当然でしょうね。今回の原因の大本が信仰心である。でも、幻想郷では信仰心はなくてはならないもの。
それを無くしてしまえば幻想郷は間違いなく消滅してしまう。でも、そうなるとあの異変がいずれ起きることは明白。
何しろ、今回のことは人里にも知れ渡ってしまっている。妖怪や妖精が暴れた範囲があまりにも広すぎて、目撃されてしまったからなんだけどね。
そのせいで人里の人達の妖怪や妖精に対する恐れは強くなってしまった。そうなれば、近い内に同じことが起きるのは間違いない。
悩んだ末、私達が取った方法。それは――
「信仰心の分散。それをせざるおえなかった」
 無くせないものならば、せめて影響を最小限に。そう考えられてのこと。そのためにまず人間達の勢力を強める必要があった。
あの異変は信仰心に頼りすぎた為にあまりにも神々や妖精、妖怪なんかに偏りすぎていたのだ。そのせいでバランスが崩れたわけね。
でも、どうやって勢力を強めるかが問題だった。何もしなければ人間達が勢力を強めるなんて事が出来るはずがない。
で、考えられたのが神々に妖怪や妖精との共存共栄化の強化。仕方なかったとはいえ人間と神々、妖怪や妖精とはへだたりがあった。
それを少しでも解消する為には人間と妖怪、妖精を一緒に暮らせるようにしたのだ。
まぁ、人喰いをする妖怪もいるからなんでもかんでもってわけにはいかなかったけどね。
ともかく、そうすることで人間達の勢力を強める事が出来る。でも、あまり強すぎるとやっぱり同じことは起きてしまう。
その対策としてレミリアや輝夜らを領主にし、人間達を分ける形でそこへと移住させた。
こうすることで人間達の間にも均衡を作り、領主となった者達も信仰の対象とすることでバランスを取ろうとしたのよね。
でもまぁ、それで解決ってわけにもいかなかった。信仰の維持とかそういう調整も必要だったし。
ホント、あの時は私も忙しかったわよ。紫に言われて動かなきゃならなかったし。
「そうして、現在の幻想郷の原型が出来た。でも、それで終わりでも無かった」
 原因である信仰心を無くすわけにはいかない。でも、原因である以上同じことはいつかは起きる。
紫が話したのはいつか起きる異変を出来るだけ先延ばしにするもの。根本的な解決じゃない。もちろん、異変が起きたのなら解決しなければならない。
ただ――
「でも、問題はそれがいつ起きるか……起きてしまったら、対処出来るのか? そういう不安があったの」
 そうなのだ。いつかは起きる。でも、いつ起きるかはわからない。1年後? 10年後? 50年後? 100年後?
どれもがありえるし、どれもがありえないかもしれない。それに起きるのが数十年後ならば別な問題が出てくる。異変を対処する者の存在だ。
私だって歳を取る。数十年も経てばおばあさんになる。そうなったら戦えるか? と聞かれたら、無理と言うしかない。実際、ある歳を境に力が弱まっていったしね。
そうなったら代わりにレミリア達がやれば? と思うかもしれないけど、彼女達は領主になった以上自分の領地に住む人達を守る義務がある。
なので積極的に関わるというのは難しくなるのよ。まぁ、他にもいないわけじゃないけど、基本的に異変を対処するのは博麗の巫女の務めだ。
でも、私以外の次世代の博麗の巫女が戦えるのか? という問題がある。と言い出したのは紫なのよね。
紫の話だと私や魔理沙、早苗のような者は稀とのこと。修行を積んだとしても早々私達にようにはならないみたい。
つまり戦えないわけじゃないけど、強い奴が出てきたら負ける可能性が高いってことらしい。
 では、どうするか? 最初は良也さんみたいに蓬莱人になるとか考えられたんだけど、それは良也さん自身に止められた。
永遠に生きるなんてことをするもんじゃないってのが理由みたい。良也さんも成り行きで蓬莱人になったとはいえ、その重さを実感してた頃だしね。
で、次に考えられたのが異変が起きるまで冬眠するというもの。ただの冬眠ではなく、冬眠に入る直前の状態で体が保存されるらしい。
これが私の方から却下した。良也さんの話だと浦島太郎と同じもんみたい。そんな同じことを経験するのは嫌だったし。
「それで考えられたのは力と能力、記憶と経験の保存と継承だったの」
 どういうことかというと紫が今言った私達の魂に近いものを冥界で保存し、異変が起きる前触れみたいなものがあったら私達の血筋――
すなわち子孫にそれを継承させるっていうもの。
つまり今の私達ってわけ。今の私は過去の霊夢であり、現在に生きる霊夢でもある。わかりにくいけど、そういう存在になったのよ。
「じゃあ、お姉ちゃんは……『博麗大異変』を解決した霊夢様の生まれ変わりってことですか?」
「あ〜、それは違う。その霊夢の記憶なんかを受け継いだってだけで本人ってわけじゃない。だから、いつも通りに付き合ってやればいいさ」
 詠奈は話を聞いてそう思ったみたいだけど、良也さんが訂正してくれた。まぁ、紫の話を聞いてたらそう思っちゃうわよねぇ。
ほら、お父さんもお母さんも私を見る目が変わっちゃってるじゃないの。
「でもまぁ、今考えると無茶したよなぁ〜」
「そりゃそうですよ。レミリアさんや輝夜さん……それに神奈子様や諏訪子様などが総出で創り上げた秘術ですから」
 魔理沙が笑ってる横で早苗がため息を吐いてる。ま、近いものとはいえ魂の保存と継承なんて無茶をしようとしてたしね。
だから、各々の能力を使ってその秘術を完成させたわけだ。
「話は終わった? で、異変についてわかってることは?」
「それについてはまだなんにも。レミリアもぼんやりとしかわからないみたいでさ。今も調べてる最中なんだよ」
 肩をすくめながら良也さんが答えてくれる。にしても参ったなぁ……それじゃあ、何をしていいかわからないじゃない。
「今回の異変に関しては200年前と似たものが起きる。ということしかわかってないわ。
良也の言う通り今も調べてるけど、何もわかってないのが現状ね。でも、あまりにも不透明すぎる……まるで何かに遮られてるかのように――」
 珍しく紫が真面目な顔になってる。それほどやばいことなんでしょうね。レミリアでもわからないってことはそういうことなんでしょうし。
「それじゃあ、私は戻ってるわね。何かわかったら連絡するわ。ああ、それとレミリアや輝夜達に顔を出してきなさい。彼女達もあなた達に会いたがってたわよ」
「そ……それと聞いておきたかったんだけど、なぜ今の私達に私達の名前を与えたの?」
 立ち上がる紫にそのことを聞いてみる。今の私達の名前を与えたのは紫と神奈子達だ。当然、なにかあってのことなんでしょうけど。
「そうねぇ……幸いというか、この異変が起きることは今のあなた達が生まれる直前にわかったの。少なくとも十数年後に起きることもね。
それでレミリアに確認してもらってから名を与えたってわけ。久しぶりに会うのに他人の名前で呼ぶなんてことしたくなかったもの」
 なんて、にこやかな顔をして言ってくれる。まぁ、名前が同じなのは助かるけどね。違う名前だったら混乱しそうだし。
「じゃあ、私はこれで。後は夫婦水入らずでもしてなさい」
 打って変わって胡散臭い笑みを浮かべて、紫はスキマへと消えていった。し〜んと静まる家族達。唯一、私がすするお茶の音だけが響いてる。
あ、でもそうでもないか。良也さんが変な汗を噴出してるし。
「思い出した!? それってどういうこと!? どういうことなの!?」
「だ、だから、それは――」
「さっきも言ったでしょ? 私と良也さんは夫婦だって」
「私達も、だろ?」
「そうですよ」
 慌てた様子で良也さんの襟首を締め上げてる詠奈。代わりに答えたんだけど、魔理沙と早苗が不服そうな顔をしてる。
間違ってないというのに何がそんなに不満なんだろうか?
「だから……そういうと余計な誤解が――」
「なによそれぇぇぇぇぇぇ!!?」
 良也さんが何かを言おうとしたら詠奈が大絶叫。あ、良也産の首が垂れ下がってる。また死んだかしら?
めんどくさいけど、話した方がいいみたいねぇ。私達と良也さんとの馴れ初めって奴をね。

 あとがき
ども、DRTです。第三章いかがでしたでしょうか? うん、相変わらずぐだぐだです^^;
今回は博麗大異変について触れたわけですが、次回は霊夢達と良也の馴れ初めな話です。
ついでに良也は何をしていたか? にも触れます。これって良也モテモテじゃんと思われそうですが……実際そうです(おい)
まぁ、なにはともあれ、次回をお楽しみに〜……してくれますか?(おいおい)










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