自分の席で窓の外を見つめる。そこにあるのは見慣れた風景。のはず……でも、なぜかそうじゃないという思いもある。
なぜ、そう思うのかはわからない。でも、なぜかそう思えてならない。
「霊夢〜。もう行こうぜ」
「うん、今行く」
 返事を返してから私は鞄を持って立ち上がり、魔理沙と早苗の元へと駆け寄る。そこで二三話してから、また外の景色を見た。
うん、やっぱりいつもの町だ。そのはずなのに……不安になるのは、なぜ?


第壱章 紅白の巫女


 幻想郷……それが私が生まれ育った世界だ。世界と言うとおかしいと思われそうだが、私は幻想郷以外の所を見た事が無いのだからしょうがない。
なんでもこの世界は結界に覆われており、結界の外との交流をほぼ完全に遮断しているとのこと。なぜ、そんなことをしたのかは……
知るのは妖怪の賢人と言われる八雲 紫様ぐらいなものだろう。……なぜだろう? 紫様を様付けで呼ぶと寒気がするのは――
ともかく、そのせいでこの幻想郷は独自の文化を築いていったらしく、今では妖怪や妖精、果ては神様なんかとほぼ完全な共存共栄している。
人と妖怪なんかのハーフも珍しくない。まぁ、たま〜に人を襲う妖怪や妖精がいるんだけどね。
で、この幻想郷を包む結界は私の家の神社が基点になってるんだそうだ。神社の名前は博麗神社。そこに住む私の名前は博麗 霊夢。
それが名前なんだけど……未だに名前で気が重くなる。というのも博麗神社の四代前の巫女であり、私達家族の始祖たる霊夢様と同姓同名なのだから――
なんで、そんな人と同姓同名なのか? なんでも私が生まれた時に紫様が現れて、私に霊夢の名を与えたらしい。
両親は大層喜んだそうだけど、私としては勘弁して欲しいわ。つ〜のも、霊夢様は幻想郷の歴史の中で超が付く有名な方だ。
200年程前に『博麗大異変』と呼ばれる幻想郷の存在自体が危ぶまれた異変が起きた際、それを解決した1人なのだから。
一方の私は普通の中学生。一応巫女だけど、大したことは出来ないのに……ああ、やだやだ。考えたら、また気が重くなっちゃった。
「なぁ、最近なんか町がおかしくないか?」
「あ、魔理沙さんも感じてたんですか?」
 頭の後ろで両腕を組みながら歩く魔理沙に早苗も同意したかのように聞いてくる。霧雨 魔理沙と東風谷 早苗。
2人とも私の親友であり、同時に私と同じく『博麗大異変』を解決した人達と同姓同名。
魔理沙は私と同じで紫様に名前をもらったらしいけど、早苗は実家の神社に住まう二柱の神様の八坂 神奈子様と洩矢 諏訪子様に名前をもらったみたい。
 歴史に出てくる人と同姓同名なもんだから私達は周りから奇異な目で見られて……まぁ、そのおかげか魔理沙と早苗と仲良くなれたんだけどね。
ちなみにだけど、魔理沙は普通の人間。歴史に出てくる魔理沙と違い、魔法は使えない。
「あ、2人もなんだ?」
「てことは、霊夢もか?」
 顔を向ける魔理沙にうなずく。いつの頃からか、見慣れた風景が別のものに見えるように感じていた。最初は気のせいだと思った。
でも、それが毎日のように続くと流石に気のせいとは思えなくなる。それだけじゃない。先程の紫様のこともそうだけど、他にも違和感を感じるのだ。
私だけかと思ったけど、2人もそうだったなんて……
「何か起こらなきゃいいけどね」
「霊夢が言うと冗談に聞こえないんだけどな」
 魔理沙が苦笑してるけど……うん、ごめん。言っておいてなんだけど、私もどうかもと思ってしまったわよ。
昔から私は勘がいいと言われる。それは私もそうかもと思ってる。テストの山勘とか良く当たるしね。そのおかげで魔理沙に頼られたりする。
ホント、何事もなければいいんだけど……

「ただいま〜」
「お帰り」
 境内を掃くお母さんに声を掛け、自分の部屋に戻って制服から巫女服に着替えて神社の中へと行き、そこで正座をして瞑想を始める。
いわゆる巫女の修行なんだけど……今でも思うんだけど、これって意味あるのかな? 正座して瞑想するだけが修行ってのも……この時もそう思っていた。
おかしいと気付いた時、私は見知らぬ場所にいた。いや、違う……ここは博麗神社? でも、どこか違って見えるのはなぜ?
「時が来たのね」
「え?」
 声が聞こえて、慌てて振り向いた。そこにいたのは……私? そう、私だ。まるで鏡に映したようにそっくりな私――
違うのは着ている物。私は普通の巫女服だけど、私とそっくりな少女はノースリーブなのに和服のような袖を付けてたり、袴じゃなくてスカートだ。
「あなたは誰?」
「私はあなた。といった所かしら? 正確にはあなたになる者とも言うけどね」
「なにそれ?」
 少女はどこかで見たような笑みで答える。どこかで見た? なぜ、そう思うの?
それはそれとして、少女の言っている意味がわからなくて、思わず問い返すけど――
「すぐにわかるわ。だって、あなたは私を受け継ぐのだから――」
「なにそれ? 何を言って――」
 それ以上は言えなかった。少女は飛び込んできたかと思うと私と重なって――

「霊夢……霊夢!」
 あ、れ? 私、どうして……誰かに抱きかかえられてる? この声は……お母さん? 朦朧としてた意識が少しづつハッキリしてきた。
私、どうしたんだっけ? 確かいつもの修行をしてて……修行? なんでそんなめんどくさいことをしなきゃならないのよ?
あ、あれ? めんどくさい? 私、修行のことをそんな風に思ったことないのに、今はそんな風に感じる? 
「霊夢?」
 起き上がる私にお母さんが戸惑った声を掛ける。お母さん? 私にお母さんなんて……え? あれ? なに? 私じゃない私が中にいる?
凄い違和感のはずなのに違和感を感じない? なんなの、これ?
「お〜い、大丈夫か?」
 声が聞こえて、お母さんと共に振り返ってみるとそこには見慣れた男の人がいた。
「良也さんじゃないの。どうしたのよ?」
「え? 霊夢……知り合い……なの?」
「何言ってるの? この人は……誰だっけ?」
 戸惑ってるお母さんに答えようとして、ふとおかしなことに気付いた。この人は……誰だっけ? おかしい……あの男の人は会ったことが無いはずなのに知っている?
そう、いつも会っていた知り合いみたいに――
「あ〜、どうやら継承したてで混乱してるみたいだな」
「あ、あの……どちら様……ですか?」
 男の人は納得したようにうんうんうなずいてるけど……なぜだろう。あれを見てるとイラつくのは?
そんな時にお母さんが男の人に問い掛けて――
「ああ、こりゃ失礼。僕は土樹 良也っていいます」
「あ、これはご丁寧に。私は……ツチキ リョウヤ?」
 男の人の名前を聞いたお母さんが自己紹介をしようとして固まってる。ま、当然か。土樹 良也といえば、『博麗大異変』を解決した1人と同姓同名なんだし。
私が驚かなかったのはそれが当然だったから。ああ、色々と思い出してきた。思い出すってのは正確じゃないんだけど……
「お久しぶりね。良也さん」
「お、その様子だと調子を取り戻したみたいだな。久しぶり、霊夢」
 笑顔の私に良也さんも笑顔で返してきた。お母さんはそれを戸惑った様子で見てたけど、説明しなきゃならないわよねぇ。めんどくさいんだけど……
でも、ま、しょうがないか。私がこうして戻ってきたのは、いずれ起きるであろう異変の為なんだし。さてと、良也さんにはたっぷりと働いてもらわなきゃね。
「お〜い、その笑顔はなんか怖いんだけど」
 おや、気付かれちゃったか。まぁ、いいけど。どうせ逃がさないしね。それはそうと魔理沙と早苗はいつ来るのかしら?


 現在の幻想郷設定
東方奇縁譚から200年後の話。文明水準は昭和初期頃。移動手段として自転車が登場している。服装だけは現代に近い水準。
200年程前に『博麗大異変』という幻想郷が滅亡しかねない事件が起きる。当時を知る妖怪などはいるのに、なぜか異変の詳細は明かされてはいない。
ただ、その異変がきっかけで人と妖怪や妖精、神との共存共栄化が強まり、現在では人と妖怪などのハーフが普通にいる。
弾幕ごっこはあまり見られなくなっている。その1つの理由として、200年間異変が起きなかったことが上げられる。

 キャラクター紹介
 博麗 霊夢
博麗神社の巫女にして上白沢学校に通う中学生。なお、上白沢学校とは上白沢 慧音が校長を務める小中高一環の学校である。(一環なのは生徒数が少ない為)
『博麗大異変』を解決した1人の名を紫から与えられたことで、周りから奇異な目で見られた時期があった。
それは紫や神奈子らによって解決したが、そのせいで名前の重さを実感するハメになる。
今回、何かに目覚めたようなのだが――
父、義光。母、美奈恵。妹、詠奈の4人家族。

 土樹 良也
『博麗大異変』を解決した1人だが、本人は『大したことはしてない』となぜか遠い目をして語る。
ご存知蓬莱人であり、現在は完全に幻想郷の住民なのだが、たまに外の世界に戻っているらしい。
一箇所に留まらず、紅魔館や永遠亭、白玉楼などを渡り歩き、泊まらせてもらってる生活を送っている。
今回、霊夢に起きた異変の理由を知ってるらしく、現れたようなのだが――
後、霊夢達に関わる秘密もあるらしいが、それはいつか明かされる……時が来るのか?


 あとがき
みなさま、初めまして。東方奇縁譚に触発されて、こんなものを書いてみた者です。
最初は良也と霊夢と魔理沙のラブラブモノを書いてたのですが、しっくり来なかったので1分で構成組んでこれを書き上げました。
東方奇縁譚の三次創作に見えてまったくの別物になってますが、楽しんでいただけたら幸いです。後、よろしければ感想もらえると嬉しいです。
次回は魔理沙と早苗の身にも変化が起きて……という話になる予定です。あくまで予定ですが……




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