「まさか大結界に傷をつけようとするとは」 目の前に立つのは誰でも一度は耳にしたことがあるだろう9本の尾を持つ大妖怪、九尾の狐。 正直まるで勝てる気がしない。霊力も、身体能力も、術も俺はこいつの足元にも及ばないだろう。 「君の力は下手をすれば幻想郷に致命的な被害を出しかねない」 しかし逃げるわけにはいかない。 「君はここで始末し、妖怪たちの貴重な食料にでもなってもらうとしよう」 こいつを倒して、被害にあった皆を救い出す――――! 1話「プロローグ1」 「はあ、神隠しの調査ですか」 師匠とはまた少し違うのだが俺、春野信二を普段からしごき倒す軍神、八坂神奈子さんに呼び出され守矢神社の本殿に向かい要件を伺うと、何てことはないいつもの仕事の話だった。 「そうだ。何でも××村にある山で神隠しが起こることがあるらしい。最近も村人の孫娘さんが行方知らずになったとのことだ」 「妖怪の仕業ですか?」 「まだ分からん。まあ並の妖怪ならお前でも余裕だろう。そこの村長さんは数少ないうちの信仰者なんだ。解決してこいとは言わんが何かしら手掛かりは掴んできてくれ」 以上だと締めくくる。 神隠しねえ。大昔の妖怪は人食いがとても多かったとは聞くけど、今の妖怪は悪戯くらいしか出来ない魑魅魍魎くらいなもんだし、人が消息不明となると危険人物の類だと思うが。 まあ下手に力の強い妖怪を相手にするよりはそっちの方が楽だしどっちでもいいんだけどね。 とまあ詳しい村の場所等を聞いているとバタバタと慌ただしい足取りでこちらに向かう音が聞こえてきた。 「八坂さま! そのお仕事私も行きたいです!」 本殿に入ってきたのはこの神社の一人娘の巫女であり、風祝でもある守矢早苗だった。 俺がちょいちょい仕事に向かうのを見て触発されているのか最近はこういったことが増えてきていた。 まだ小学生なのだが実際守矢秘伝の術なども使いこなせることと、現人神であるため技術面では俺よりも上なので付いてきてもらえれば俺の仕事も結構楽になると思うのだが 「早苗、いつも言っているでしょう。貴女にはまだ早いし、危険なお仕事なのだから怪我でもしたらどうするの」 この通りの過保護っぷりである。 というか今の妖怪ってほんと階段を一段多く錯覚させるとか、意味もなく恐怖心を煽る(何もないのに暗闇で物音を立てるとか)とかしか出来ないから妖怪がらみで怪我することはまず無い。 「信二さん、お願いします! お邪魔にはなりませんから!」 「却下」 まあ俺も早苗のことは可愛い妹のように思ってるので了承なんてしないが。 いやほら万が一とかあったら困るじゃん? 「だって私色んな術が使えるんですよ? お父さんやお母さんだって使えないようなものまで習得してるのに……!」 そんなふくれっ面で言われてもねえ。 「だからお前がせめて高校生くらいになったら連れてってやるって言ってるだろ?」 俺も仕事を任せられるようになったのは中学を卒業してからだったしな。 それまでは俺も何度か簡単な仕事でも良いからと頼んでいたのだが結局中学生の間は許可されることはなく、高校に入り仕事を任せられるようになっても1年位の間は仕事から帰るたびに怪我はないかとえらく心配をされていた。 ちなみに仕事の内容は夜な夜な金縛りをしてくる(ただ動けなくなるだけで害はない)弱い悪霊の除霊、悪戯好きの妖怪退治などである。 「それに今回は泊まり込みでの調査になるからどの道早苗は連れていけないよ」 「え、泊まり込みなんですか?」 そんな話は聞いていない。 「今回は本腰を入れていく方針だからね。村長さんも民宿を貸してくれるそうだ。まあ最長で一週間くらいだね」 一週間の間秋の山の中を調査するのか……。冬眠前のクマとかハチとか活発に動いてるから怖いな。妖怪よりよっぽど怖い。 最悪山の中で霊撃をぶっぱすることになるな。 「ところで明日俺普通に学校あるんですけど」 「適当に理由つけとくから問題なし」 ひでえ。もう高2だから色々大事な授業があるのに。 「まあ仮に留年とか退学とかなってもうちに婿入りすればいいだけなんだから気にしない気にしない」 「またそれですか」 俺が高校に入ったころ位からこの手の話がよく出てくるようになってきた。 俺の霊力は人並み外れたものらしく、容量だけでいえば早苗を超えている。それに加えて結界術の才能にも恵まれているため守矢神社の跡継ぎとしても不足はないそうだ。 能力なども早苗の「奇跡を起こす程度の能力」の様に俺も有してはいるのだがそれは今はいいだろう。 実際俺自身それも悪くはないかなとか少しは思っているのだが、やっぱり早苗にはちゃんと自分で決めた人と幸せになってもらいたい。俺に懐いてはいるがそれも年上のお兄さんに対する憧れめいたものだろうからな。 まあもしもその相手が早苗の容姿や神社の財産目当てだったりしたら二度と見れない面にしてやるがね。早苗は美人になるだろうし、神社も信仰はだいぶ少ないがやはり持つものは持っている。 まあ何にせよだ。 「早苗の前でするような話じゃないでしょう」 見ろ、早苗のやつ顔を赤くして俯いてしまってるじゃないか。可愛いなもう。 「それもそうだね。ならこの話は早苗が16になったらまたするとして」 そんな速攻で結婚させるつもりか。 「今回行く先は神隠し以外の被害は特にないんだが妖怪の目撃例が多々あるらしいから、念のためにあれも持っていきな」 あれっていうと神社の御神木から作られた神奈子さんの霊力を込めた木刀か。確かに退魔の効果も高いし俺の能力強化には持って来いな武器なんだが、正直使うことってほぼ無いし荷物になるんだよなあ。 「妖怪って言っても雑魚ばっかりじゃないですか。そこまでしなくてもいいんじゃ……」 「いや、そこの山はいやに霊力が籠っているらしくてな。噂話程度なんだが昔は妖怪の隠れ里なんかもあったって話だ」 「今はもう無いんですか?」 「さあねえ。でも退魔士たちがあちらこちらを探し回ったらしいけどそれらしいものは見つからなかったと聞いてるよ」 ふぅん、何とも胡散臭い話だな。 でも霊力の籠った場所にいる妖怪となると確かに力の強い者がいたりする可能性があるし、ここは神奈子さんの言うとおり木刀も持っていくか。 「他に聞いておきたいことはあるかい?」 「いえ、特には」 他の詳しい話は村長さんが教えてくれるってなってるみたいだし。 「よし、それじゃあ明日はよろしく頼んだよ。あ、後これが地図ね」 ほい、と渡された地図をざっと見てみる。 ……マジでド田舎だな。駅からも相当離れてるし、どんだけ時間掛かるんだ。 まあぼやいても仕方ないしさっさと荷物まとめるか。 失礼しましたと早苗と一緒に本殿を出る。 途中から早苗のやつ随分静かだったけど多分いつものパターンだよなあ。こういう自分の意見が通らなかったりすると不機嫌そうな顔で俯いていて、そうなるとご機嫌撮りが毎回苦労するんだよな。 そう思いつつチラ見してみると。 「……」 意外なことに愛用のお祓い棒を握りしめて何かを考え込んでいるようだった。 「信二さん、後でお部屋に行ってもいいですか?」 「ん? 別にいいけど、何だよ改まって」 聞くが早苗はいいえと首を振って小走りでどこかへと向かっていった。 何だろうか。どうにかして付いていく方法を考えてるんじゃないだろうな。 ま、後で分かることだし俺も準備準備。 「えーっと衣服類はまあこれだけあればいいか。後は……」 大体のものはバックに詰め込めんだし、適当に荷物の確認をしておくとするか。 一週間分の衣服類(念を押してやや多め)、護符と退魔符、木刀、神奈子さんお手製修行メニュー、ス○ーンショップで買ったリングのシルバーネックレス(オシャレ兼宝石部分に霊力を込めてお守りにしている)、G○ョック、携帯電話、暇つぶし用に小説と漫画を数冊とCDプレイヤー、地図、財布、虫よけスプレー。 まあこんなところか。服とかでだいぶバックが埋まってるけどどうせ木刀は竹刀袋にいれて持っていくし、腕時計やネックレスも最初から身に着けてるしな。 しかし仕事とはいえ実際ちょっと楽しみだな。こんな長期の仕事なんて初めてだし、それに確かに行先は田舎だがつまりはそれだけ自然があるということだ。 自然の多い場所は基本的に質の良い霊力や気に溢れている。ある程度の術者ともなればそれらを取り込んで己の力にすることも可能だ。その辺もあって山に籠って修行をする者もいたりする。 俺の場合は修行などではなくその質の良い霊力や気を感じ、その中に身を任せることが好きなのだ。あの一体感は街の中ではまず味わえない。 「おーい、入るよー」 ふと襖の向こうから声をかけられる。この声は……。 「諏訪子さんですか? どーぞ」 俺が返事をすると開けられた襖の先には目玉のようなものがついた特徴的な帽子と幼い容姿を持つ祟り神、洩矢諏訪子さんが立っていた。 「いやー、悪いね夜分に」 「構いませんよ別に。もう準備も終わりましたから」 「そっか。仕事先は××村なんだって?」 「ええまあ。なんでもそこの村長さんがここの信仰者らしくて」 「そっかそっか。今でも私達のことを覚えてくれてたってことなのかな。嬉しいなあ」 ん? 覚えてる? それってまさか、諏訪子さんや神奈子さんが見えてるってことなのか? 「もう70年くらい前になるのかなあ。何でも××村には山奥に寂れた神社しかないらしくてね、一番近い大きな神社がここだったらしいんだよ。で、うちに来てくれてた参拝客の中に私たちを見つけた子供がいてね」 「その子が今の村長さんなんですか?」 「うん、最後に来た時に村長に就任したって言ってたからその筈だよ。で、それから毎年初詣には必ず顔を出してくれてね。私も神奈子も嬉しくてその子には特別気合の入れたお守りを作ってあげてたんだ」 神様2人が気合を入れてお守りを作るって、それはさぞ効果てきめんだろうな。 「でも20年くらい前に病気で目が見えなくなったらしくてね。それからはもう来てなかったんだけど、まさかこういう形でまた繋がりが出来るだなんて何があるか分からないもんだね」 いやーハハハと笑う諏訪子さんの顔は本当に嬉しそうだ。 まあそれはそうだろうな。なんせ本当の意味での信仰者が、20年視界を失った状態でも2柱のことを信じていたのだから。これ以上の喜びは中々ないだろう。 「何か村長さんに渡しておきたいものとかあったら渡しておきましょうか? 折角ですし」 「うん、それは神奈子とも話し合ってね。今準備してるとこだからまあ明日には預けるよ」 これは益々気合を入れなきゃいけないな。失敗したら2人の顔に泥を塗ってしまう。 しかし諏訪子さんたちの姿は俺や早苗の様に霊力が大きい人間か、修行を積んだ高位の 術者じゃないと見えないんだけどな。 もしかしたら件の山の霊力を無意識に取り込んでいたのか? けど神様の姿が見えるレベルまで霊力が増加したとなると、ちょっと、いやかなり異常だな。 一般の人間の霊力を大幅に上昇させたというなら尋常じゃない霊力がその山には籠ってることになる。 ……ふむ、妖怪の隠れ里か。結構危険かもしれないな。後で護符と退魔符を増やしておくか。 「どうしたの? 難しい顔して」 「いや、ちょっと考え事を」 諏訪子さんや神奈子さんもその山のことはあまり詳しく知ってそうにないし今聞いても仕方ないな。明日やっぱり村長さんに直接聞くしかないか。 そんなことを考えていると諏訪子さんが何かを思い至ったかのように俺の顔を見て「にやぁっ」と妖艶な笑みを浮かべてきた。 ってこの顔はまずい! 逃げっ……! 「ちょっ! 膝に乗って来ないでください!」 「ふっふーん。さては普段の禁欲生活から抜け出せるから春画本の類を持っていこうとか思ってるね?」 「思ってない! 断じてそんなことは考えてません!」 この家の人たちのことは家族のようには思っているのだが、どこかで他人の家だと思ってしまっているのかまあいわゆる自家発電はしないようにしている。 加えてこの家が女性が多いことと、神奈子さんや諏訪子さんの様な人がいるからどこに居ても見られているような感じがして尚更できない状態なのだ。 かれこれ禁欲生活1年目。地獄です。 「ふぅん、そっか。でももしも向こうで寝てる間に出ちゃったりしたらすごく恥かしいじゃない?」 「ひっ! ちょっ! ちょっ!」 舌が回らない舌が回らない! ちょっと! ちょっと! 甚平の紐を解くな胸に顔を摺り寄せるなぁ! 「私としてもそんな恥ずかしい真似してほしくないし。さて、どうしようか?」 耳元で囁くな首元に滑るように顔を埋めるな! この流れはマズイ! これは言うなれば1年前の禁欲1年目の時と2年前の初体験の時の流れに非常に酷似して―――――――――――! 「――すっきりさせとこうか」 手が俺の肌を滑り落ちて、ってそこズボンのなk(ry まあなんだ。 諏訪子さんが言うには見えて、触れて、霊力が高く、男で、反応が初心な俺はこの人からして見れば「手を出さない理由がない」らしい。 だが誰でも良い訳ではないらしいので光栄だと思っておこう。諏訪子さんも「信二にちゃんとした伴侶」が見つかったらもうしないとか言ってるし。 あ、それと気持ちよかったです。すごく。 「ぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 木刀をブンブン振り回す。俺の中から出ていけ桃色の記憶! あの人は神様、あの人は神様、あの人は神様! あの人はロリじゃない、あの人はロリじゃない、あの人はロリじゃない! 俺はロリコンじゃねえええええええええええええええええええええええ!! この素振りは2時間続いたという。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 人物紹介 春野信二 守矢神社に住む少年。現在高校二年生。 12歳まで孤児院にいたがとある出来事を切っ掛けに守矢神社に引き取ってもらい、神奈子に修行をつけてもらう。 正式な弟子ではないので守矢の秘術などは教えられず、神奈子からは基礎的な霊術や結界術、また信二の能力に合わせた修行を教わっている。 神奈子には憧れと尊敬を抱いている。 早苗からは密かな好意を受けているが、兄に対する憧れみたいなものと思っている。信二もまた妹同然に可愛がっている。 性に関して大らかな面があり、1年前と2年前のこともあって諏訪子には若干苦手意識があるが、決して嫌っているわけでなく神奈子同様慕っている。 2年前にとある大妖怪に襲われ、それ以降その妖怪のことを調べている。 諏訪子が信二に手を出したのもこれが切っ掛けらしい。 得意な術は結界術。 神奈子の基礎修行から自分で編み出した結界術も使える。 霊力は極めて高く、現人神である早苗をも超える。 武器として、御神木から作られた木刀を持つ。だがあくまで能力の補助用なので剣の腕は格闘一家の剣道家の女性に多少教えてもらった程度。 身体能力も高く、霊力による強化なしでも見た目の細さ以上の力を持っている。もっとも筋トレも日課で行っているので割と筋肉は付いている。 武道の心得はないが神奈子との組手や、「武神」と呼ばれた人物と稽古試合をしている最中で己自身の動きを手に入れた。 学校での成績は良くないが、「勉強が出来ないタイプ」というより「勉強しなかったタイプ」。 オシャレが得意なわけではいが、服装やネックレスなど多少は気を使っている様子。 髪型は背中の真ん中辺りまで伸びた黒髪を後ろでくくっている。伸ばしているのはオシャレではなく、子供のころから伸ばしていたためそのままにしている。短くしたこともあるが落ち着かなかったらしい。 背は平均に少し足りない。 趣味は珈琲や紅茶を淹れること。最近はお菓子作りにも手を出している(洋菓子のみ)。 後書き 初めまして土星と申します。 こちらに投稿するのは初めてなのでだいぶ緊張しています。 奇縁譚の3次としていますが、時系列が旧作の霊異伝のちょっと前辺りなので本編主人公の良也が出てくるのはまだ結構先になります。 方針としてはオリジナルストーリーと奇縁譚本編の時系列に沿ったネタでやっていくことになると思います。 年齢は増えたり増えなかったり、奇縁譚同様その辺はあいまいにしてあります。(だって原作通りなら良也の年齢ってもう30歳になっちゃうし) 諏訪子とのシーンは、まあ奇縁譚の特別編でも結構ギリギリだしセフセフなんじゃないかなーと思っています。アウトだったらごめんなさい。後諏訪子は俺の中で結構性的なことに関しては大らかだと思っています。要するにエロいと思ってます。ごめんなさい。 でもこのオリ主人公、展開に気を付けないと「誠○ね」状態になりかねないから気を付けないと……。 本当は2次にしようか迷っていたんですが、いつも楽しませてもらっている奇縁譚の主人公良也とオリキャラでバカをやりたいと思い妄想を文章にしました。 小説を書くのも実に3〜4年ぶりで筆も遅く、それも元々文才もないのでgdgdになるかもしれませんがよろしくお願いします。 |
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