読む前に。
 まず、文字が全て中央に寄っていた場合は、EI8などの最新のバージョンの問題です。
 解決するには、一番上ツールバー(人によって違うかもしれない)に □□□ という感じに四角のボタンが3つあります。
 その左のボタンが、互換表示という奴で、押せば設定した通りに表示されます。詳しくは、カーソルをボタンの上に置いて、少し待てば表示される筈です。





 物語を読むに当たって。
 オリジナル主人公&視点で進む。
 オリジナル設定あり&多少違う部分が出る可能性あり。
 東方に関する知識が微妙に曖昧(二次創作との)なので、そこの点をご了承ください。










































「……うっ、ぅん」

 放浪とした意識と、闇の中。
 呻き声を上げると、軽い振動と誰かの声が聞こえる。だが、どれも曖昧で、何を言っているのか判らない。
 俺は、ゆっくりと目を開ける。
 案の定、目が眩んで視界がぼやけているが、霧が晴れていくかの如く、徐々にはっきりとしてくる。
 その視界には、動物の耳を生やした女の子がいた。いわゆる、獣耳というか、形から猫耳だと思う。
 それを確認した瞬間、俺は硬直したが一瞬であった。まぁ、コスプレはその気になれば、誰だって出来る。ただそれは、その人に合っているかどうかである。
 可愛い子が、可愛いコスプレをやるのは判るが、デブの男が何かのヒロインの衣装を着ていれば――問答無用でリンチしたい気持ちに駆られる。駆られるが、やれば犯罪者なのでできない。

「おはようございます」
「お、おはよう……ございます」

 いきなり朝の挨拶をしてきたので、驚きながらも返事を返す。一種の条件反射である。

「橙」

 その声に、俺と猫耳の女の子である橙は、顔を向ける。

「藍様!!」

 藍と呼ばれる女性は、帽子で隠れていて判らないが、獣耳らしきモノがあり、後ろには九本の狐の尻尾があった。

(擬人化九尾のコスプレ?)

 などと、俺の第一印象を与えるも、生真面目のキャリアウーマンタイプの人だと考えた。
 多分、格好は橙という子に合わせているのだろうと、勝手に解釈する。姉か、親か、子どもに付き合うのは、何も問題ではないから。
 それはさて置き、俺は体をゆっくり起こしながら、何と無く感触を確かめる。
 ……問題は無いが、少し顔と首が痛い。あの時の女性の攻撃が痛い。一瞬であったが、柔らかい感触はあったが、次は圧力に変わっていた。
 簡単に述べると、柔らかい感覚よりも、重みの衝撃の方が強い。

「大丈夫か?」

 藍と呼ばれる女性は、座りながら声を掛けてきた。

「あ、はい。首が、少しだけ痛いですが……それ以外は、大丈夫です」
「あら、それは良かったわ」

 再び顔を、声のする方へ向ける。
 そこには、十五年間も慣れ親しんだ空間が開らかれ、そこから女性が現れる。

「紫様」

 藍と呼ばれた女性が、声を出す。

「あ、ヒップアタッカー」

 平然と言い切る俺。自殺志願者と言われれば、そこまでであるが。
 俺の言葉に、藍と橙は口元を引き攣らせていたらしいが、見えていないので判らない。

「気持ち良かった?」
「まだ首が痛い」

 俺は、首を押さえながら言った。紫に対しての当てつけでもあるが、本気で痛い。
 まぁ、質量の重さと落ち始めた高さから生まれる早さを弾き出せば、首にどれだけの重さが乗ったか判る。判るが、数学は得意でないので、重さが判ったとしても計算する事は出来ない。

「まぁ、色々言いたい事はあるけど、それは置いといて――今日から、アナタの名前は『八雲空』。『空』と書いて『くう』と読むの」

 いきなりの言葉に、俺の頭は付いて来られなかった。
 何ですかいきなり。名前を変えるなど、暴君極まりない。極まりないが、最初の辺りの言葉を言う時のエガオが怖かったので、黙っておく。

「ああ、自己紹介がまだだったわね。私が八雲紫。狐のコスプレが藍で、猫耳が橙だから。ちなみに、2人は式紙だから」

 極端すぎる紹介に、これまた思考がついて行けない俺。しかも、コスプレ好きなら話は判るが、式紙なんて架空の存在を挙げられても困る。

「あ、あの紫様? 話が見えないのですが……」

 横から藍の声が上がる。気配で判るが、橙が首を振っている。多分、上下だろう。

「じゃ、あとはよろしく〜」
「ゆ、紫様!?」

 紫は言いたい事を言い終えたらしく、さっさと空間を展開して下がってしまった。
 やりたい放題だなという感想を抱きながら、藍の方に顔を向ける――彼女は凹んでいた。
 俺は、気休め程度だと判っていても、彼女の肩を軽く叩く。

「いつか、良い事があるさ」

 これまた在り来りな言葉を掛ける。
 しかし、藍は俺の手を取り、半泣きの顔を向ける。

「ありがとうございます」

 苦労しているのだと、判った瞬間でもあった。俗に言う、苦労人だろう。










































東方空物語
〜とうほうそらものがたり〜











































 それから、布団から出た俺は、首の調子を確認しながら藍に居間に案内された。
 居間は、今時珍しい和式――というか、箪笥なのが置いてあるので、昭和初期の雰囲気が出ている。年季も程よく雰囲気も出ているちゃぶぅ台の前に座り、出されたお茶を飲みながら、今の状態の説明を受けた。

「……大体判った。判ったけど……何で、俺は空と名乗らないといけないんだ?」
「先ほど言った通り、我が主である紫様の決定は絶対である。が、確かにその通りだ」

 俺の疑問に、藍は顎に手を当てながら考え込む。
 ちなみに橙は、庭で猫たちと戯れている。

「お前が紫様の下に付いたのなら、話は判る。だが、お前は下に付いた覚えも無く、問答無用でこちらに来た。我らの誇りである『八雲』の姓と、紫様直々に名まで授かった」
「それもさっきだけど。ちなみに、外でも面識はなかったから」

 その言葉に、藍はさらに頭を悩ませた様で、頭を抱えてしまった。
 俺も一緒に考える。が、思い当たる事が1つだけあった。

「『力』か?」
「『力』? どんな?」

 呟いた言葉を拾い取り、何なのか尋ねてきた藍。特に隠す必要は無い。

「こんな『力』」

 藍の問いに、俺は力を発動させ、目の前に空間を展開した。確か、紫は『スキマ』という名前を付けたが、採用かどうかはまだである。
 が、この『力』を見た藍は、完全に固まっていた。
 そして、ギギギギと音が立っているような幻聴を耳にしながら、俺と『力』を交互に何度も見る。
 何と無くだが、怒られるのを承知で藍の下に空間を開き、落とす。
 で、閉じてから、先ほどまで藍がいた頭上に、空間を展開。そのままストンと落ちてきた。
 完全に固まっていた。
 俺は不信に思い、藍の横まで移動して、顔に手をかざして上下に振る。
 反応が無く、4往復目でいきなり手を掴まれ、引き寄せられたと思いきや胸倉を掴まれる。目が血走った状態で顔を近づけてきたが、真面目に怖い。

「〇ΘΓΧ※Ф▲◇◎▽¥〆&ф∩!!!?」
「おっ、落ち着け!? 何言っているか判らないから!!」

 本当に何言っているのか不明で、覗きに来たと思われる橙と一緒に藍を落ち着かせた。

「ほぃ、水」

 で、俺は勝手に台所から水を持ってきて、藍の前に置いた。予断であるが、何故か釜戸はともかく、冷蔵庫が異常な存在感を出していたのが印象だった。
 如何見ても、5年位前に大々的にCMが行われた冷蔵庫で、今はさらに性能が上がった奴が出ている。その際、このタイプの冷蔵庫は、何処にも販売されておらず、修理だけしかしていない奴である。
 ただ、電気が通っているのかと疑問に思ったが、コードが地面に埋まっていたので、真相は不明のまま。あとで聞こうと心に誓う。

「ああ、ありがとう――ぅん」

 礼を言いながらコップを取り、口に運んでそのまま飲む。相当参っていたのか、そのまま一気飲み。
 口から離すと、案の定、コップは空になった。

「はぁ〜」

 一言感想。この人は、ため息が似合いすぎる。以上。

「空だったな……今、失礼なことを考えなかったか?」
「いいえ、滅相もございません」

 少しだけ、目を反らして言った。
 勘がいいのは、ベースが動物だからか。それとも、俗に言う女のカンって奴か。どちらにしても、少し気をつけないと。

「まぁいい。先ほどの紫様が、お前に名を与えたことについてだが、答えが出た。っというか、お前が持っていた」

 その言葉に、俺は頭にハテナを浮かべた。

「お前の『力』は、紫様と同じなのだ」

 真っ直ぐな目で、俺の目を見据えた。

「同じ『力』?」
「そう。紫様はスキマ妖怪で、この幻想郷の中で最強の妖怪だが、その能力が――『境界を弄る程度の能力』なのだ」










































第一話

八雲
〜やくも〜











































 俺は、藍から紫の事を聞いた。で、俺が空間の開く力は、紫が使うスキマと同じだということ。
 故に、俺はこの世界――幻想郷に連れて来られたのだと。
 この力は、案の定人間には、余りにも危険すぎる力であること。まぁ、犯罪に手を染めていないし、使うにしても移動手段か、仕返しに内緒で相手の頭を殴る時にしか使っていない。
 ……今思い直したけど、仕返しが拙いな。
 ちなみに、仕返しの理由は……俺の態度が気に食わないと突っ掛かって来た連中である。手段は殴る以外で、水を掛ける。台所の虫の代表である『G』を投下。さすがにゴミは投下しなかった。後片付けが大変だし、周りの迷惑にもなるから。台所の虫の代表である『G』の回収も、一苦労だったが、1回しかやっていない。ってか、俺自身が駄目だから。しかも、二度とやらないと心に決めている。
 家に巣食っていた台所の虫の代表である『G』は、粗方処理できても。

「色々あるが、これだけは言っておく」

 藍の言葉に、再度姿勢を立て直す。

「『八雲』の名を得た以上、その名に恥じぬ行いをしろ……良いな?」

 重い言葉だった。
 たかが十八年しか生きていない、尻の青いガキでも判る圧力。それほど重い名なのだと。
 世の中、その重さを感じ取っても、理解しようとしない者がいるのが現状である。

「判ったけど……何か、猫耳の子――橙だっけ? ものすぅっごく睨んでいるような、いないような」

 襖から顔を半分出して、俺を眼見している。

「こら、橙」

 その言葉に、橙は反応して、さっさと引っ込んでしまう。

「ああ、別にいいですよ」

 立って後を追うとする藍を静止する。

「現実と架空の区別は付けているつもりですが、こういうのはお約束みたいなものですし」

 その言葉に、ため息を返された。
 うん、呆れられるのも判る。だって、そのお約束は、大体がゲームやアニメだし。

「仕方が無いと言えば、仕方が無いのだが……行き成りで悪いが、留守を頼めるか?」

 その言葉に、困惑しながら思ったことを口にする。色々言いたい事はあるが、何で仕方が無いのか? それ以前に、肝心なのは。

「……初対面の人間に、家を任せるのはぁ……」

 俺は、右の人差し指で、右のこめかみに突き立てる。

「紫様が、『八雲』の名を授けたからだ」

 どうやら、ここでは『八雲』の苗字が重要らしい。
 いや、説明を受けているから、彼女にとってどれだけ重要か判る。が、ふと疑問が湧き上がる。

「判りました。けど――家に帰れるのか、俺?」

 右手をこめかみから頭に移し、掻き毟る。

「それは紫様次第だろうが……『八雲』の名を授けた。つまり――」
「帰すつもりは無い、と?」

 俺の言葉に、藍は頷く。
 結局俺は、盛大なため息をつきつつ、留守を預かることになった。
 ちなみに、家には橙が残るので、ある程度の事はその子に聞けての事。ただ、家を出て行かれる前に、トイレの場所は聞いておいた。未だに橙は、俺の事を睨んでいるのだから。
 台所も、きちんと戻しておけば、使っても構わないとの事。なので、さっそく自分が作れる和菓子を作ることにした。
 まず、冷蔵庫を拝借。
 中身を確認後、小麦粉などの材料の確認。
 それらを総合して作れる和菓子――定番の大福、こしあんである。
 ちなみに、あんの中に僅かに皮が入っているのを、こしあんと呼ぶのは邪道である。
 なので、すり鉢を見つけたので徹底的に擦った。量は、俺が見て4個程度だったので、時間は掛からなかった。
 次に、白玉粉と砂糖を使い、捏ねて皮を作る。で、それを4つに分け、あんこを包んでいく。
 最後に、片栗粉を塗して完成。
 大雑把だが、自分で食べるのだから問題は無い。
 さらに盛り、道具を水に付けておく。食べ終わってから、まとめて洗えばいいと踏んだからである。
 皿を持って振り返ると、橙がこちらの様子を伺っていたらしく、すぐに引っ込んでしまった。
 大福――もどきとつけるべきか、それが4つ。

「橙だったな、一緒に食べるか?」

 と、言いながら、出入り口に顔を向ける……が、返事も気配も無い。
 俺は苦笑しながら皿を出し、大福もどきを2つ乗せた。
 ついでに、虫がつくと拙いと思い、被せるモノが無いかと辺りを見回すと、何故かラップが目に入った。
 何と無くだが、期待を裏切らないのが嬉しかった。

「お〜い! 台所に置いておくから、冷蔵庫に入れるか、早めに食べろよぉ〜!!」

 家に響き渡るような大きな声で、用件を言い、水を持って出て行く。
 そして、縁側までいくと、そこに腰を下ろして、風景を眺めながら大福を一口――うん、今回は上手く出来た。
 水を飲んでから、お茶が良かったと少し後悔。
 天気も良く、気候も丁度。時間的には、一時過ぎている。昼寝には、最適な条件下である。
 陽気に誘われ、次第に目を閉じて……何かに揺すられた為、目をゆっくり開ける。

「起きたか、空」

 藍にそう言われながら目を擦ると、空は青から赤に変わっていた。
 どうやら寝てしまったらしいが、大福がそのままで、まだ後片付けが終わっていない事を思い出した。

「すっ、すいません」

 慌てて起きるが、皿とコップが見当たらない。

「あれ? 皿とコップが――」
「あら、私が片付けておいたわ」

 居間から声を出す紫。
 あちゃぁーと、手を当てる俺。居候? の分際で昼寝した挙句、この家の当主に後片付けをしてもらったのである。
 申し訳無さが、込こみ上げてくる。

「いいのよ。大福の礼とさせてもらえば」

 何事も無かったように言われ、唖然とするも聞き返す。

「だっ、大福って、あんなので良かったのですか?」

 敬語。まぁ、ヘマぽい事をやらかした手前、普通に答えるのは失礼だから。

「ええ、それなりに美味しかったし。橙も美味しそうに食べていた様だし」

 その言葉に、居間の奥を見ると橙と目が合うも、反らされてしまった。
 それを見て微笑む紫と、台所から料理を運んできた藍。

「あ、藍さん、手伝います」

 当主が良いと言っても、あくまで片付けだけなので、この辺で働かないと。
 しかし、藍に首を横に振られてしまい、どうしようもないので卓袱台(ちゃぶだい)に着く。

「はい、座布団」

 後ろから橙が、座布団を手渡してきた。
 何気に尻尾が揺れているが、今は見なかった事にする。物事には、タイミングと言うモノがあるので。

「ありがとう」

 そう言って、座布団を置いてから、その上にスライドする様にして乗る。
 座布団に直接座るのは、客人の場合はナマー違反に当たるからである。
 自分の立場が、現在どうなっているのか不明だからである。
 卓袱台の上には、4人分の料理が並んでいるが――中華料理が置いてある。

「どうした?」
「え、あ、その……この世界に中華料理があった事に驚いたので」

 藍の問いに、戸惑いながら答える俺。何とも間抜けな。
 ってか、家の雰囲気から和食だと踏んでいたが、中華料理が出るとは思わなかった。
 例えるなら、無防備のボディにリバーブローを叩き込まれた感じだ。叩き込まれた経験は無いよ、俺には。

「それか。紫様が、時々外の世界のモノを持ってくることがあって、その中に料理の本があってなぁ」

 材料はともかく、本を見ているのなら、何と無く判る。
 基本的には、中華料理の様にそれなりの油を使った料理は、幻想郷が成り立った時にはまだ来ていなかったはずである。多分。

「まぁ、ともかく頂きましょう」

 そう言いながら、紫も卓袱台につく。
 料理が運び終わったのか、藍も座る。
 そして、全員が手を合わせ、恒例の挨拶が行われる。
『いただききます』

 そのまま、晩御飯を頂いた。
 で、終了後の後片付けに、俺は手伝った。橙も、俺の影響を受けたのか、俺よりも早く片付けを行った。
 おかげで、ほとんどやることが無かったのだが。
 さらに、紫からは、今度大福を作ってくれと頼まれた。
 そんなに上手かったのか、適当な分量で作られている大福が。調理手順は、正規の方法である。
 作り方まで適当なら、不味い。の一言に尽きるから。
 まぁ、断る理由は無いが、上手く出来ない時もある事を伝えた上で、作り事を約束した。
 明日辺りにでも、早速作るつもりである。
 そう考えながら、縁側でお茶を手に、夜空を眺めている。
 ゲームやアニメが恋しくなったが、空を見て、1発でその気持ちは吹き飛んだのである。
 オタク呼ばわりされるが、基本的には楽しいからやる程度で、やり込む事をしている訳ではない。
 簡単に言えば、オタク並みに執着しているのでない。
 と、不意に後ろから服を引っ張られたので、振り向く。橙である。

「どうした、だいだい?」
「だいだいじゃないもん、橙だもん」
「ああ、そうだ。だけど、だいだいとも読――ぁだ!?」

 顔面に衝撃。
 目と目の間、眉間より下の部分を中心点に、痛みが広がる。
 少し涙目ながら橙を見ると、右手がグーになっている。ワンパンチされたらしい。いや、猫だから猫パンチか。

「ぷぃ」

 そう言って、頬を膨らませながら背を向けてしまう橙。

「あ、悪かった。悪かった」

 手で顔を押さえながらも、橙に謝る。
 しかし、背を向けたままで、尻尾は垂れたまま。
 こういう展開を漫画で見たことはあるが、それを現実に持ってくるのは、いささかどうかと思った。
 だが、気にしている暇は無い。

「また大福を作ってあげるから」

 その言葉に、耳と尻尾がピンと伸びる。
 そんなに上手かったのか、俺が作った大福は。これでは、下手なものが作れないのではないか。作る気は、元から無いけど。

「本当に?」
「紫さんにも頼まれているからな。明日辺りにでも、まとめて作ってあげるよ」
「うん♪」

 俺に言葉に、こちらに顔を向けて、喜ぶ橙。
 尻尾もパタパタと振られているのが見え、俺も何と無く微笑ましくなる。

「空」

 その声に、後ろを振り返ると、藍がいた。

「橙も一緒か」
「藍様」
「何か用事でも?」

 俺は藍に尋ねると、頷き帰される。どうやら肯定のようだ。

「明日、幽々子様の所に出向く事になった」
「おぇ!? っと、幽々子様? 確か……冥界の?」

 昼辺りに幻想郷について、一通りの簡単な説明を受けている。
 そこで、天界、冥界、地獄辺りが印象に残っていて、それぞれの統治者と関係者の名前で聞いている。
 その中の冥界――西行寺幽々子、その従者である魂魄妖夢。
 ちなみに、言葉を言う前に橙に後ろから腰を掴まれ、反動で少し前に出たので軽く驚いた。で、振り払う理由も無いので、そのままにしてある。

「えっと……幽々子様って人が、白玉楼の主で。魂魄妖夢が従者で、剣士で――庭師?」

 あんまり覚えていないのが現状だが、断片的な部分だけ必死に思い出しつつ言っていく。

「そうだ。そこで、手見上げにお前の大福を持って行きたいそうだ」

 少しだけ考え込む――たかが十数個だろう。
 あとは、俺が出来る範囲の大福でいいか。

「別に良いですよ」

 頷いてから、そう答えた。

「そうか、なら私も手伝おう」
「別に手伝いが入るほどでもないでしょう? たかが十数個ほど――いや、少し多めにした方が」
「まて」

 そこで、藍から声が掛かる。

「……何ですか?」

 声を掛けられた瞬間、俺に嫌な予感が襲い掛かり、ギギギギと音が立つような感じで顔を向ける。そこで藍の顔を見るも、何故か哀れみの表情であった。
 そして、口が開かれる。

「数個では無い……数百個だ」
「…………」

 頭が固まった。

「…………はい?」

 硬直した頭を、無理やり起動させつつ、藍に訪ね返す俺。
 何か、とんでもない事を聞いたような。

「もう一度言う――数百個だ」
「手伝ってください」

 俺は、素早く藍の手を掴んだ。本能であろうか、逃げられては困るから。藍は、少し驚いたのか、耳と尻尾を伸ばしている。
 うん、この辺の反応は動物だな。などと思ってしまう。しかし、今の行動は現実逃避と言えるので、横に置いておく。

「わっ、判った。内にある限りの材料なら、容易は出来るが……それ以上は、紫様の力が必要となる」
「何でさ? ってか、料理できるのか、あの人?」

 その言葉に、藍は化石となった。
 さすがに驚いた。始めてみるのだからな、人が硬直するのは。
 何と無く後ろを振り向くと、いつの間にか離れた橙は「あ〜あ、やっちゃった」みたいな顔をしつつ反らしていた。
 この瞬間、悟った。俺は地雷を、踏みつけたのだと。
 何せ、背筋に寒気が走り続けているのだから。

 右肩に、優しく何かが触れる。
 何か怖いけど、振り返るなと脳内サイレンが木霊する。
 だが、いくら木霊して所で、後ろにいる人からは逃げられない。自分から追う事も、引き寄せる事も出来るのだから。

「人――ではないけど、見かけで判断するのは……だ・め・よ♪」

 滅茶苦茶怖いです。助けてください光線を藍に向けるが、硬直が解けたのか、顔を反らされた。
 無駄と判っていても、人間必死になると、相手が子どもだろうが関係無くなる。手っ取り早く言えば、橙に視線を移したのである。藍辺りに怒られそうだが、紫よりはマシだと踏んだ結果である。
 結果――案の定、顔ごと反らされました。
 時間切れか、優しく置かれていた手が徐々に強くなり、後ろに引っ張られる――と言うか、後ろに吹っ飛ばされた。

「――――――――!?」

 悲鳴に鳴らない悲鳴を上げる日が来るとは、思いもよらなかったが、感動している暇すらない。
 スキマに入れせられ――……。
 ただ、無くなる間際に、手を合わせる藍と橙の姿が見えた。
 そうして、俺――八雲空としての一日目が過ぎていった。










































≪提供≫
久遠天鈴
ニコニコ動画
八雲家
サークル・闇砲










































≪予告という名の予定≫
第二話

亡霊
〜はらぺぇこひめ〜










































第一話
END





















あとがき
 主人公視点のみで描かれる物語、一話目終了。
 よくフェイトで、士郎視点から、凛視点に変わったりする事は無いです。はっきり言って、現実の個人と変わり無い視点である。
 所詮は他人。寝ている間や、別の場所など判る訳も無いのですから。ちなみに、予告の漢字と読み仮名が違うのは、仕様ですのでご注意を。
 最後に、1人視点のみで書くのは難しい&所々修正と追加文章あり。

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