地下室の暮らしも慣れてしまえば楽なものだ。 まあ、ケネケネさんの宿題が山積みでたまにパノの図書館で調べ物をするけど。 そんな時、文文。新聞の最新号を目にする。 「これは?」 『あだ名大魔王。各自、呼ばれたいあだ名を募集中』 な、なんじゃこりゃ!? しかもノリノリであだ名の希望者がいるし。 姐さんが言ってたのはこれのことか!? 「ちょっと頭痛がしてきた」 希望者リストについてはパスしておく。 あとは、実際にあだ名をつけられた相手の感想コーナーか。 これは気になるから見てみよう。 「えーと」 紫=姐さん 本人にも言ったけど悪くはないわよ。 藍=ラー姉さん まさか姉と呼ばれる日が来るとは思わなかった。 橙=チー姉ちゃん お姉ちゃんの命令は絶対だからね。 「別に家族という訳では……」 萃香=スイスイ 鬼にあだ名をつける豪胆な人間は珍しいから面白い。 霖之助=コリコリさん そんなに肩こりをしているように見えるのかな? 魔理沙=マリマリ 好きに呼んだらいいぜ。 霊夢=レムレム どうでもいいわ。素敵なお賽――。 「こんな時にも賽銭かよ!!」 「あはは、霊夢さんのコメントですか?」 「こあこあも見たのか? この記事を?」 「あ、はい」 んじゃ続きを……幽香=ゆかさ――。 「拒否だ!! 拒否!!」 「ど、どうしたんですか?」 「な、何でもないよ、何でも」 ゆかさんのコメントになると拒絶反応が出てしまう。 どうせロクなコメントじゃないから無視するぞ。 もう鳥肌が立ってしまってすげぇ〜怖かった。 「こっちは紅魔館メンバー……」 美鈴=リン師匠またはリンさん 中国と呼ばれなくて心の底からホッとしています。 「そんなに中国って呼ばれるのが嫌なのか」 咲夜=咲さん 無難なあだ名です。 小悪魔=こあこあ。 とても新鮮な呼び方で楽しくなります。 パチュリー=パノ どっちでもいいわよ。 レミリア=レミレミ この呼び名は聞き飽きたわ。 フランドール=フラちゃん 可愛い呼び方だから気に入っちゃったよ。 妖精メイド一同=メイA、B、C……(以下略) 元から名前がないのであだ名がつくだけマシです。 「あ、こっちは」 チルノ=チルチル あたいさいきょーだし。 「関係ないし」 大妖精=ダイダイ チルノちゃんとお揃いで嬉しいです 「えーと、お揃い……なのかな?」 ルーミア=ルミルミ あなたは食べてもいい人類? 「食べたらダメです」 小傘=コサちゃん 次こそは驚かせてやるんだから。 「えーと、あだ名の感想になってないよな?」 幽々子=ゆゆさん ゆこさんもいいけど、こちらも捨てがたいわ。 「それも有りだね」 妖夢=みょん ちょっと恥ずかしいです。でも嫌という訳では……。 「うーむ、本当に嫌だったら何とかしないと」 輝夜=かぐちゃん 可愛いあだ名をありがとう。 鈴仙=イナさん うどんって呼ばなければ別にいいわ。 てゐ=うさうさ 絶対に私の耳を見て言ったよね? 「そ、そんなことはないぞ」 永琳=エリエリさん ユニークなあだ名で悪くないわね。 慧音=ケネケネさん 親しく呼んでくれるあだ名を嫌に思うものか。 妹紅=ふもさん 細かいことはいちいち気にしないよ。 阿求=あっきゅん きーくんがつけたくれたあだ名は嬉しかったよ。 文=フミフミ てっきり、あやあやかと思いましたけど意表を突かれました。 「あー、これって3つの意味があるんだよな」 和風の厚底くんこと天狗下駄の『踏み』。 記者として相手の気持ちに『踏み』込む。 文という漢字が『ふみ』とも読める。 あだ名能力でこんなに由来が流れてきたのはフミフミが初めてだった。 あの時点で自分の暗示に気付くべきだったと思う。 「なっ!?」 映姫=映ちゃ――。 「これも拒否」 ちょっとフミフミ!! なんで映ちゃんにまで取材してるの!? ゆかさんが物理的に関わりたくないナンバーワンなら、映ちゃんは精神的に関わりたくないナンバーワンだ。 説教という単語が見えたけど見なかったことにする。 「コホン、さて」 天子=天ちゃん あの一撃だけは納得してないからね!! 「それ、あだ名の感想じゃない」 朱鷺子=とっきゅん 最初は嫌だったけど今は別に……。 「ううっ〜、嫌だったのか。ごめんよ」 リリーホワイト=リホワちゃん 春ですよー。 「春のお知らせはもういいから。あ、レホワさんは冬眠中だからノーコメントだね」 モグ。 うー♪ 「文字にすると流石にわからん」 ワタ。 もふもふっ♪ 「だからわからんって」 筋肉坊主。 いつかケリをつけたるで。 「ライバル宣言? つーか、これもあだ名の感想じゃないし」 それにしても、こんなに沢山の感想があるなんて。 だからなのか、あだ名の希望者がこんなにも多いのは? 「……」 唯一あだ名に影響されない土樹からの一言。 『受け入れてくれる相手は必ずいるよ』 「……ぅ……っっ」 ちっ、どいつもこいつもお節介だな。 目にゴミが入ってしまったじゃないか。 ったく、余計な一言だっつーの。 ………………。 …………。 ……。 あれから数日が過ぎた。 パノの図書館でこあこあの餞別を受け取る。 保管用のスキマのおかげでいくらでも荷物が入った。 「いいのか、こあこあ? こんなに傷薬をくれちゃって」 「鬼心さんのことですから、また必要になるかと思いまして」 「大切に使わせてもらうよ。パノも色々と相談に乗ってくれてありがとう」 「私は貴方の相談屋になった覚えはないのだけど……」 「違いない。じゃあ、行ってきます」 屋敷の外までは咲さんが見送ってくれる。 その咲さんと一緒に廊下を歩いていると。 「鬼心、行っちゃうの?」 「ああ、やっぱオレには旅の道が合ってるからな」 「むぅ〜」 「そんな顔するなよ」 「だって、寂しくなるもん」 「レミレミもそれぐらい素直だったらなぁ〜」 「お姉様は素直じゃないから。あーあ、良也が来たら一杯遊んでもらおっと」 「あはは、土樹が大変だな」 やっぱりフラちゃんって成長してるよな。 相手を思いやるような優しさが伝わってくる。 「前にくれた折り紙のお守り、大切にしてるからな」 「えへへっ♪」 頭をナデナデしてやってから屋敷の外に出る。 フラちゃんがバイバイと手を振ってたのでこっちも手を振って背を向ける。 もっと駄々をこねるかと思ったけど、土樹の教育の賜物だろうか。 「咲さん、旅の餞別ありがとう」 生きるための食料がたくさん入っている。 あれだけ用意をするのはさぞかし大変だっただろう。 「お礼でしたら指示を与えて下さったお嬢様に」 「で、そのレミレミはどこに?」 「ふてくされて寝ております」 「はっ? ふてくされ?」 「あんたに愛想が尽きたからとっとと出て行けと言ってました」 「あいつに愛想なんてあったっけ?」 「さぁ〜」 「まあいい。じゃあ、レミレミに伝言。縁があったらまた会おう。以上」 「はい、確かにお伝えしますわ」 さて、門を通ってリン師匠に声を掛けてみたけど。 「zzz」 「相変わらずだな、リン師匠」 咲さんがナイフを取り出してるのもいつも通りだな。 オレは念仏を唱えながらその場を立ち去る。 ギャーという悲鳴を耳にしながら旅立っていった。 そして……。 ――幻想郷はすべてを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ。 「姐さんも相変わらずだね」 なんの前触れもなく姐さんが登場する。 ったく、オレみたいなやつは潰そうと思えば潰せるだろうに。 ひと思いに潰さず生き地獄を与えているかのようだ。 たしかに残酷といえば残酷……でもな。 「それがあるから今のオレがいる」 後悔をしてはいけない。 自分のやった行動には最後まで責任を取らないといけない。 それがケジメというものだろう。 「うふふっ、貴方はこの先どこへ向かうのかしら?」 「さぁ〜、企業秘密でございます」 「あのメイドさんの真似?」 「正解♪」 「正解者には賞品が欲しいところね」 「ご希望は?」 「0円スマイルをお願いするわ」 「ふっ、笑顔もパワーでいくぜ!!」 マリマリみたいに勝気な笑顔を見せてやった。 弱者のオレがやったら、ただの強がりにしか映らないだろうけど。 それでも姐さんはクスッと笑って静かに消えていった。 「さて、行くか」 あだ名を希望してくれる者たちはたくさんいる。 受け入れてくれる先に向かってオレは突き進む。 そう、オレの旅はまだ始まったばかりだ。 END あとがき こんにちは、作者の文士です。 ご拝読されてた読者の皆様、まことにありがとうございます。 今回、諸事情によりこのような形で完結をいたしました。 こちらのサイトへ送る最初で最後の投稿作品です。 また、一身上の都合で引退するため、感想を書き込みされても応じることはできません。 悪しからずご了承ください。 |
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