オレは一撃屋として幻想郷に広まってしまった。
 天狗達が勝手に押し付けた仕事はもう避けて通れない。

「こりゃあ、命懸けの仕事になるね」

 吹雪が止んで旅立ちの日となった。
 そんな時、部屋からノックの音が響く。

「鬼心、ちょっといいかしら?」
「はい咲さん、どうぞ」

 一瞬のうちに咲さんが目の前にやって来た。
 わざわざ時間を止めなくても普通に入ればいいのに。

「地底のさとり様から一撃屋の開業祝いが届いております」
「どれどれ……これは?」

 紺色をした忍装束のような衣装。
 軽くて丈夫で動きやすいことを重視した戦闘服だ。
 一撃屋の作業着としては最適といえるだろう。

「サイズに問題ありませんか?」
「うん、問題ないね」

 口元を隠せる布まであるとはやけに本格的だ。
 いずれ地底にはお礼を言いに行かないとな。
  
「では、旅のお荷物を用意しましたのでこちらへ」
「了解」

 咲さんの案内で実際に荷物を確認する。
 山積みになっている荷物に唖然としてしまった。
 トラックに積んだら軽く四、五台は超えると思う。

「咲さん、いくらなんでも多すぎです」
「荷物は別室にもあります。これはまだ序の口ですよ」
「オレはそこまで長期旅行をするつもりはない」
「大は小を兼ねると言います」

 姐さんから貰った保管用のスキマは無限に入る。
 でも、これだけの量となると収納するだけで時間が掛かるぞ。
 まあ、咲さんの時間を操る能力で手伝ってもらうけどな。

「開け、スキマ」

 オレと咲さんはスキマの収納作業を開始する。
 あとで検索しやすいように分類札もつけておいた。

「ねぇ〜、あまり私を待たせないでくれる?」
「そう思うならお前も手伝え」
「嫌よ。高貴な私の手が汚れるじゃない」
「こんにゃろう……あー、咲さんも一緒に来てくれない?」

 レミレミのお守りということで。

「ダメです。私は紅魔館の留守を預かっている身ですから」

 咲さん、キッパリと拒否されましたね。
 まあ、これは当然でしょう。
 オレが逆の立場なら絶対に同じことをする。

「貴様、私と外出するのがそれほど嫌だと」
「嫌です。いたたたたたたたっ!!」

 即答した途端に爪ガリガリはやめい!!
 おでこに傷ができるだろうが!!

「大体なによ、その衣装は? 忍者ごっこでもするつもり?」
「地底からの贈り物だよ。一撃屋の作業着として使おうと思ってな」
「ださいわね。まだ執事の服のほうが断然にマシよ」
「執事服だとお前の従者だと勘違いする輩が出てくるからダメだ」

 収納作業が終わって出かける準備を整える。
 外に出ると冷たい空気と共に白い雪景色が視界に広がった。
 咲さんが入り口のところで見送りをしてくれる。

「お風邪を召されませんように気をつけて下さい」
「こいつはバカだから風邪なんて引かないわよ」
「咲さん、こいつ殴っていい?」
「命が惜しくなければどうぞ」

 あーあ、結局オレはレミレミの我侭に付き合うのか。
 フミフミが吹聴した一撃屋のせいで挑戦者も来るだろうし。
 とりあえず、門番をしているリンさんに別れの挨拶をするか。

「行ってきます、リンさん」
「zzz」
「レミレミ、これってどうよ?」
「咲夜」
「はい、ただちに教育を」
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!」

 グサグサとナイフの突き刺さる音とリンさんの絶叫。
 それを見送り代わりにしてオレ達は旅立った。

 ………………。
 …………。
 ……。

「レミレミ、日傘ぐらい自分で持てよ」
「嫌よ。手がくたびれるじゃない」

 青空に点々と広がっている白い雲。
 雪の道を歩くたびにオレとレミレミの足跡がつく。
 凍っている湖の近くを通り過ぎようとした時。

「レミレミ」
「わかってるわ」

 日傘をレミレミに持たせてオレは空を飛ぶ。
 予想通りに氷の弾幕がオレに向かって飛んでくる。

「ちっ!! いきなりかよ!!」

 尖っている氷の塊は下手に当たると危ないけど当たらなければ大丈夫。
 今まで遭遇した弾幕の中では一番簡単だった。
 さて、この弾幕を仕掛けた犯人は……。

「あんた誰? 人間よね?」
「チルチルよ、オレを忘れるなんてちょっと悲しいぞ」

 氷の妖精チルノことチルチル。
 前に会ったことがあるのに忘れられている。
 もしかして、名前とか顔とか覚えるのが苦手なのか?

「一撃屋の鬼心だ。個人的には今すぐにでも廃業したいけど」
「いちげきや? なにそれ、美味しいの?」
「残念だけど飲食店ではない。それより何の用だ?」
「あ、そうそう。あんた、あたいの縄張りに勝手に入ってきたでしょう」

 えぇ〜、湖を通り過ぎようとしただけなのに?
 あれが縄張りってことなの?
 それなら門ぐらい用意しとけよ。

「あたいの許可なく勝手に入ってきたからカチカチに凍らせてやる」
「スイスイはオレに教えてくれた。売られた喧嘩は全力を持って買えと」

 氷の弱点となれば間違いなく火だ。
 焚き火を作る程度の火ならオレでも作れる。
 それを上手くぶつけてやればチルチルに勝てるだろう。

「チルノちゃん!! ダメだよ!!」

 どこからともなく緑髪の妖精さんが姿を現した。
 そして、チルチルの額にデコピン喰らわせる。

「い、いったぁ?」
「もう。人間さんに手を出したら、また博麗の巫女にお仕置きされるよ?」
「だ、大丈夫だもん。あたい最強だしっ!!」
「確かに妖精の中では霊力が高いし、氷の質も抜群に良さそうだね」
「当然よ、あたい最強だもん!!」

 チルチルって本当にうるさい妖精だな。
 最初に会った時もそうだった。
 とりあえず、矛先をおさめてチルチルの相方に挨拶をしよう。

「はじめまして、一撃屋の鬼心です」
「大妖精です。どうぞよろしく」
「こちらこそよろしく、ダイダイ」

 さて、自己紹介が終わったところで。

「ダイダイ、ちょっとこれを見てくれる?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「文文。新聞のここ。チルチルが挑戦者リストに載ってるんだけどさ」

 オレは一撃屋としてチルチルが挑戦しているのかどうかを探る。
 もしそうなら仕事として戦わなければならない。
 違うのなら、ただの喧嘩だからダイダイを仲介役にして無益な戦いを避ける。

「チルノちゃん、これ本当なの?」
「えーと、うーんと」
「あー、もうわかった。挑戦者じゃなければそれでいい」

 さっさと仲直りして湖を通りすぎてしまおう。
 オレは握手を求めてチルチルに右手を差し出す。
 ダイダイの仲介もあって渋々と握ってくれた。

「うおぉっ、つめたい!! さすが氷の妖精」
「言ったでしょう。あたいは最強だって」
「はいはい。じゃあ、あの湖を通りすぎてもいいかな?」
「はいどうぞ。湖は皆さんのものですから」

 ダイダイは本当にいい子やな。
 リンさんやこあこあに続くええ子シリーズだ。
 とにかく二人にバイバイをしてレミレミの所へ戻った。

「待たせたな」
「ふんっ」

 こら、ちょっと話をして戦いを避けただけなのに拗ねるな。
 ま、構ってたらキリがないや。
 オレが黙って先に進もうとすると。

「いたっ!! レミレミ、人の尻を蹴るな!!」
「勝手に行くあんたが悪いんでしょう。ほら、傘を持ちなさいよ」
「悪いけど今は無理」
「なんでよ?」
「手が痺れているから傘が握れない」

 チルチルと握手しただけで手の感覚が麻痺してしまった。
 かなり冷たかったから血行不良を起こしているのだろう。
 今、体内の霊妖力が右手の痺れを取ろうと働いている。

「どうしてもって言うなら左手でやるけど」

 オレは両利きだから左手でも支障はないし。

「いいわよ、別に」
「あ、そう」
「……手、大丈夫なの?」
「冷たさで麻痺しているだけだ。しばらくしたら治る」

 さーてと、山のひとつぐらいは越えたいな。
 本当は飛んで行ったらてっとり早いのだけど。
 レミレミが歩いて行く事にこだわっているからな。

「本当に冷たいわね。手が凍ってるんじゃない?」
「……いつの間に握ってきた?」
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「感覚は残っている。ただ、お前が握ってくることが意外すぎてわからなかった」
「握り潰してもいいわね?」
「やめてくれ。人間の手は脆いんだ。つーか歩きにくいって」
「この程度で歩けないようでは私の従者は務まらないわよ」
「だからオレは従者じゃない。お前の敵だっつーの」

 レミレミと手を繋いで歩いていく。
 徐々に手の感覚が戻ってきた。
 吸血鬼の手って人間の手とそんなに変わらないな。

「レミレミ、手の感覚を試したいからちょっと握り返してもいい?」
「勝手にすれば」
「あいよ……んー、まだ痺れが残ってるな。もうちょっとで治るよ」
「別に急がなくてもいいじゃない」
「いや、お前のことだから、早く傘を持てとか思ってるだろ?」
「そんなこと思ってないわよ。傘ぐらい自分で持てるわ」

 いつも手がくたびれるから持てとか言うくせに。
 どうせまた吸血鬼の気まぐれだろう。
 気にしていたらキリがないので放っておく。

「それにしても小さい手ね。やっぱり、あんたはお子ちゃまよ」
「痺れが取れたらオレが握り潰してやる」
「あんたごときの力では無理よ」
「なめんな。スイスイに鍛えられたパワーを見せてやる」
「それよりも、目の前の狐をどうにかしなさい」

 そう言われて目の前を見ると……。

「こんにちは、鬼心」
「ラー姉さん、どうしたの?」
「一撃屋の開業記念としてこれを渡しに来た」
「これは?」
「私の尻尾の毛で作った腕輪だ。用がある時はこれを使うといい」

 使い方は腕につけて心の中でラー姉さんを呼べばいいらしい。
 試しに腕に装着して呼びかけてみると……。

『鬼心、聞こえるかね?』
『あ、本当に繋がってる。まるで電話みたいだ』
『今みたいに念じてくれたら、このように連絡ができる。ただし』
『ただし?』
『私も所用があるからいつでも応答できるとは限らない』
『そりゃそうだね』
『その時はすまないが、また日を改めてほしい』
『わかりました』

 これって他の連中にも繋がっていたらすっごく便利なアイテムになるよね。
 さすがにそこまで万能型ではないのはわかってるけど。

「紫様に用がある時もその腕輪で私と呼ぶといい。取次ぎも私の仕事の内だ」
「チー姉ちゃんの時も?」
「うーん、あの子は必ずしも屋敷にいるとは限らないよ」
「えっ、そうなの?」
「橙は妖怪の山に住んでいることが多い。なんでも、猫の里で頻繁に出入りしているとか」

 猫の里ね……外の世界でいう猫屋敷みたいなものか?
 まあ、チー姉ちゃんは気まぐれな猫妖怪だ。
 どこかで縁があれば会える時もあるだろう。

「なお、紫様は冬の時期には冬眠をされる。その時の取次ぎは不可だ」
「了解」

 こうしてラー姉さんだけに通じる『連絡の腕輪』を手に入れた。
 ラー姉さんが消え去るのを見届けてから旅を続ける。
 しばらくすると……。

 ――天にして大地を制し。

 は? なんか聞こえてきたぞ。

 ――地にして要を除き。

 女の子の声みたいだけど?

 ――人の緋色の心を映し出せ!!

 ドスンという重い音を立てて、知らないお姉さんが現れる。
 ちょっとビックリしたけど幻想郷では当たり前のことだ。
 
「ふん、一撃屋なんて大層な商売をする人間がいるって聞いてみたら」
「んっ?」
「こんな子どもが相手なんてガッカリね」
「レミレミ、この失礼なお姉さん知ってる?」
「有頂天の天人ね。天気を操って異変を起こした事もある暇人よ」
「ちょっと!! 私を無視しないでよ!!」
「フミフミが天狗の山を荒らされて大変だったって聞いたけど?」
「そうよ。退屈だったから天狗達と戯れていたの」

 うわぁ〜、最悪。天狗達はメチャクチャ迷惑だっただろうね。
 さて、危険を察知する能力で相手の力量が大体わかる。
 下手をすれば、オレは一分も持たずにやられるだろう。

「オレが一撃屋の鬼心だけど、お姉さんはだれかな?」
「私は天界に住む比那名居天子。そして、これが天界の宝である緋想の剣」

 取り出した剣を大地に突き立てる。
 その途端、足元が揺れて軽めの地震が起きた。

「っとと」
「まったく無粋な天人ね。天界の生き物ってこんな連中ばかりなの?」

 だとしたら天界って凄く嫌な所になるね。
 まあ、あのお姉さんだけが特殊だとオレは予想する。
 そうでなければ天界がとっくに崩壊しているぞ。

「天子ということは天ちゃんで決まりだな」
「ちょっと、そのふざけた呼び方はなに?」
「あだ名だよ。オレはあだ名をつける能力者だ」

 誰が相手であろうと必ずあだ名をつける。
 たとえ、それが天人であろうともだ。

「誇り高き天人が下界の子どもにあだ名をつけられるなんて屈辱だわ」
「レミレミ、このお姉さんはお前と似ている。気が合うかもしれないぞ」
「寝言は寝て言いなさい。この高貴な吸血鬼とあのような有頂天な暇人とでは比べ物にならないわ」
「なんですって、普段から引きこもっているようなチビ吸血鬼が」
「そんなに殺されたいなら相手になってあげるわ。今は曇って日光が当たらないしね」

 天ちゃんとレミレミの弾幕ごっこが始まる。
 オレは外野として流れ弾が当たらないように必死で避けた。
 残念ながら天気が晴れになってしまいレミレミが引き下がる。

「ちっ、これだから気まぐれな天気は嫌なのよ」
「お帰り、レミレミ」
「あんたね、見物している暇があるならあの天人を倒しなさい」
「お断りだ。オレでは天ちゃんの相手としては役不足すぎる」
「こらぁ〜!! その呼び名はやめなさいって言ってるでしょう!!」
「たとえ天人であろうともあだ名だけは譲れない!!」

 他にもテンテン、ひなちゃん、ヒシちゃん、ヒテちゃんなどを挙げる。
 有頂天なお姉さんは文句ばかり言う。
 それならオレにも考えがあるぞ。

「天界に連れていけ。あんたの親かお偉いさんにあだ名を認めてもらう」
「ちょっと、そんな事できるわけないでしょう」
「オレはこういう能力者なんだ。誰が相手でも公平にあだ名をつける」

 どこぞのグータラ巫女とは一緒にするなよ。
 あんなのは公平に仕事をしているとは断じて思わない。

「そんなにあだ名をつけたいなら私を楽しませることね」
「はぁっ?」
「貴方は一撃屋という商売をしているのでしょう。私と戦って楽しめたらあだ名を認めてあげる」
「つまり報酬がそれってこと?」
「そうよ」

 げぇ〜、それって全然割に合わないよ。
 あだ名のために命懸けで戦えって言うのかい?
 でもあだ名だけはどうしても譲れないしな。

「わかったよ。やればいいんだろやれば」
「うふふ、そうそう。それでいいの。これで私の退屈な日々も終わり」
「いや、始まりだと思う」
「数多の妖怪や人間に一撃を当てた貴方の天気!! 見せてもらうわよ」
「見なくていい」

 まともにやっては全く勝負にならない。
 オレは創造の柄で剣を作って一騎打ちを申し込む。
 弾幕はなしで純粋な武器のみの勝負だ。

「天ちゃんに一撃でも当てたらオレの勝ち。オレが完全KOになったら天ちゃんの勝ち」
「いいわよ。まともにやっても貴方に勝ち目はないものね」
「そういうことだ」
「まあ、剣一本の勝負でも結果は変わらないでしょうけど」
「……いくぞ!!」

 オレから踏み込んで飛び上がるように剣を振り下ろす。
 ちっ、余裕な顔で軽く受け止めやがって。

「下手ね。剣の使い方がなってないわ」
「生憎と素人なもので――うぉっ!?」

 天ちゃんの斬撃を逃げ回るようにして避ける。
 受け止めようとしたら後ろに吹っ飛んで倒れてしまう。

「つまらないわ。魔法でも出したらどう?」
「ルールは破らない主義なんで。本当につまらないなら他を当たれ」
「変な子。圧倒的に負けてるくせに笑うなんて」
「そっちも変なお姉さんだ。つまらないと言いながら笑ってるぞ」
「あの鬼が言ってたわ。貴方は追い詰められるほどに力を増すってね」
「スイスイの言うことなんて真に受けないでくれ」

 もう本当に歯が立ちませんって。
 どう考えてもレベルが違いすぎる。
 それなのに向こうはワクワク顔で攻撃しまくって。

「にゃろう!!」

 段々とムカついてきたので反撃の一太刀を見せる。
 片手握りの剣で軽々と受け止められてしまった。

「へぇ〜」

 なんか知らんけど感心してるっぽい。
 微妙だけどパワーで押しちゃったって感覚がある。
 すると天ちゃんは……。

「剣技『気炎万丈の剣』」

 次の瞬間、滅多斬りを食らって最後のなぎ払いで後ろに吹っ飛ぶ。
 剣だけど峰打ちになっているという不思議な仕組みだった。

「ぉぉぉ……」

 な、なにするのぉ!? オレみたいな弱い人間にスペルカード使うな!!
 たしかに武器の技だったからルールに違反してないけどさ。

「あれを受けてもまだ動けるのね。貴方は本当に人間?」

 髪の毛だけ鬼化しているけど普通の人間です。

「鬼に鍛えられているって話は本当みたいね。それじゃあ」

 おいっ、また技を使う気か!? や、やめてくれ!!

「天符『天道是非の剣』」

 上空を切り上げるようにして紅い爆発オーラが見えた。
 とても声を上げられる状態じゃない。
 まともに食らい続けて本当に死にそうだ。

「やるわね。人間のくせにまだ立っているなんて」

 スペカの乱用ならゆかさんにやられた事があるからね。
 何があっても立ってないと苛められるし。
 トラウマスイッチが入りそうになって首をブンブンと振った。

「気符『天啓気象の剣』」

 周囲の気質を剣に集めて放つ技か!?
 そんな危険を察知して指二本をおでこに当てる。
 放つ瞬間を狙って天子の頭上まで瞬間移動をした。

「でりゃあ!!」

 振り上げた剣を全力で振り下ろす。
 天ちゃんが剣をかかげて真っ向から受け止める。
 激しい金属音が交差してオレが着地する。

「おりゃあああああああ!!」

 すぐさまオレは連続突きを仕掛ける。
 天ちゃんが軽々とさばいてみせた。

「この程度の突きで私を倒せると思ってるの?」
「うるせぇ!!」
「気符」

 ま、また来るのか!?
 オレはバックステップを踏んで間合いを取る。
 次のスペカの危険性は……ない?

「『無念無想の境地』」

 紅色のオーラをビリビリと纏って仁王立ち。
 身体強度を上げたように見えるけど……?

「うふふっ、貴方の攻撃なんてこれでへっちゃらよ」

 オレの専心防御と似た雰囲気があるな。
 防御力の高まりは圧倒的に向こうが上だけど。
 でも……。

「えいっ」

 コンッと軽く天ちゃんの頭を叩いて終わりだ。

「な、なによ今の!? 貴方、ふざけてるの!?」
「天ちゃん、これでオレの勝ちだよ。一撃を当てたらオレの勝ちだもん」

 もしかして忘れてた?
 調子に乗りすぎてルールを忘れるなんてバカでしょう。
 
「ひ、卑怯よ!! これだから下界の人間は!!」
「ルールはルールだからね。これであだ名はOKな」

 約束を守らないと天人の名折れとなるからな。
 報酬があだ名を認めることだけなんて本当に割に合わないけど。

「レミレミ、肩かして」
「嫌よ。あんたみたいな雪まみれの身体なんて触りたくないわ」
「ケチ。それでも紅魔館の当主――いてっ!!」
「踏むわよ」
「もう踏んでる!! オレは土樹じゃない!!」

 ったく、怪我人になんてことをするんだ。
 こあこあがくれた携帯用の傷薬で手当てを済ませる。
 よし、これで何とか動けるな。

「じゃあね、天ちゃん。また会おう」
「ま、待ちなさい!!」
「なんだよ、もう用は済んだでしょう?」
「こんなの納得できないわ!! もう一度勝負しなさい!!」
「本日の営業は終了しました。あしからず」

 天ちゃんの気持ちはわかるけど、もうオレは戦えません。
 誇り高き天人なら潔く身を引いてもらいたいものだ。

「天ちゃんがバカで良かった。でなければ死んでいたかも」
「あんたにバカなんて言われたら天人もお終いね」

 まあ、それはそれとしてだ。

「天ちゃん。まだ何か? 勝負はもう無理だぞ」
「う、うるさい!! 次の勝負をするまでついていくだけよ!!」
「大人しく天界に帰れ」
「嫌よ。あんな退屈な場所にいたら干されてしまうわ」
「天ちゃんが干されたほうが下界にとっては平和です」

 なんか、天ちゃんがついて来るぞ。
 やめてくれよ。レミレミだけでも手一杯なのに。

「レミレミ、あいつを追い払って」
「私に命令するな、殺すわよ」
「……天ちゃん。暇つぶしなら他を当たれ」
「地を這いずり回る人間が天人の私に指図するつもり?」

 あー、言っても無駄ですか。そうですか。
 なんでレミレミ二号みたいなやつと一緒なんだよ。
 もう無視だ、無視。放っておこう。

「ねえ、お腹すいたわ。貢物ぐらい出しなさい」
「知らん。川の水でも探して飲め」
「ほほぉー、子どものくせに私に喧嘩を売ってるのね」
「その子どもに負けたくせに偉そうなこと言うな」

 ギャーギャーとうるさいな。
 これじゃあ山の一つも越えられないじゃないか。
 左手から保管用のスキマを呼び出して食料の荷物を取り出す。

「チョコならあるけど?」
「ちょっとあんた、それ私のチョコでしょう?」
「半分ずつ分けてやれ」

 レミレミと天ちゃんが同時に嫌そうな顔をする。
 その我侭っぷりは本当に似たもの同士だね。

「嫌よ。こんなチビ吸血鬼と半分ずつなんて」
「奇遇ね。私も有頂天な暇人と分けるなんてまっぴら御免よ」
「あ、そう。じゃあ、これはオレが食べ――」
「「……」」
「お前ら揃って睨むな」

 どっちも実年齢では年上だろうに何て大人気ない。
 オレはチョコをもう一つ取り出して二人に分けた。

「なんでこうなった?」

 天界のお偉いさんよ、頼むからこいつを引き取ってくれ。
 マジで迷惑です。一刻も早く持って帰れ。
 オレの心の悲鳴は天界に届いてくれなかった。



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