紅魔館の外が猛吹雪である。
 これでは旅に出ることなんて出来ない。
 オレはパノの図書館で自己分析の資料を集めていた。

「うむむ……」
「貴方、なにを調べているの?」
「自分を見つめ直すための資料集め」

 マリマリとの弾幕ごっこで自分の弱さを痛感している。
 とっておきの大技でもマリマリのマスパーには遠く及ばなかった。
 だからこそ、今ここで自分のことを調べようと思う。

「じゃあ、貴方は自分の能力を開発しているの?」
「いや、してない」
「しなさい」
「なぜ?」
「使えるものはなんでも使うべきよ。能力次第では魔法に応用できるわ」
「うむ、その考えに同意する」

 では早速、オレが持っている能力を開発してみよう。
 まずは『危険を察知する程度の能力』。
 自分または相手の危害が生じる状況を察知できる。
 今までは直前にならないとわからかったけどね。
 でもレミレミがくれた運命の首飾りのおかげで事前にわかるようになった。

「それは『予知能力』ね。危険を察知できる範囲は?」
「基本的には目に見える範囲まで。意識的にやればもうちょっと広げられるけど」
「危険を察知する内容は?」
「攻撃を食らう危険 トラップの危険、病気の危険、相手を怒らせる危険ぐらいかな」

 命の危険性が高いものほど優先的に察知してくれる。
 まあ、姐さんのスキマやレムレムの夢想封印みたいに不可避な危険もあるけど。

「あ、そういえば……」

 オレは思いつく限りの出来事をパノに伝えていく。
 するとパノの口から色々な専門用語が飛び出した。
 難しい話になるかもしれないが、覚悟を決めて耳を傾けていこう。

「来い!!」

 フラちゃんと隠れん坊をして早く見つけ出せたのは『ダウジング』。

「ふむふむ」

 ワタやモグと会話ができたのは『テレパス』。

「ほうほう」

 霊妖弾やマスターストレートなどの必殺技は『サイコキネシス』。

「最高?」

 自分が空を飛んでいるのは『テレキネシス』

「照れる?」

 移動方陣や瞬間移動は『テレポート』。

「うむむ……」

 スイスイに教わった火の術は『パイロキネシス』。

「ちょ、ちょっと……」

 リン師匠から教わった太極拳の呼吸法は『ヒーリング』。

「うわぁ〜やめてくれ!! 頭がパンクするぅ〜!!」

 降参という意味でお手上げポーズをとる。
 あまりの量にとても覚えきれない。
 パノはそんなオレを無視して話を続けていく。

「おかしいと思っていたのよ」
「なにが?」
「魔理沙と同じ無属性なのに色合いが異なっていることが」
「?」
「これで理由がハッキリとわかったわ」
「理由?」

 きっとオレの頭上にはハテナマークで一杯であろう。
 パノよ。お願いだからもう少しわかるように言ってくれ。

「貴方は魔法よりも『超能力』に適性があるのよ」
「魔法と超能力ってどこが違うの?」
「魔法とは世界の法則を利用して通常は起こらない現象を引き起こす技術のことよ」

 ……オレ、寝てもいいですか?

「それに対して、超能力は使用者の内側に秘めている不思議な能力のこと」
「魔法だって不思議じゃん」
「はぁ〜、あのね……」

 そんなに呆れなくてもいいじゃん。
 難しい内容についていこうとしてるんだから。

「魔法は細かく系統が立てられていて、ちゃんと手続きを踏めばある程度の人が使えるのよ」
「魔法は万人向けってこと?」
「そう思ってくれていいわ。一方、超能力は極めて個人的なもので他人と同じものは中々使えないの」
「あー、言われてみると心当たりが……」

 ゆかさんに教わったマスパーもそのままでは使えなかった。
 何故なら、マスパーを放つとすぐに拡散して消えてしまうから。
 そこで自分なりに改良を加えてマストを編み出したんだ。

「『あだ名をつける程度の能力』も超能力かな?」
「それは『暗示』よ。レミィでも押し通すほどの強力な」
「ふーん。なあ、要するにオレって魔法が使えないのかな?」
「型通りの魔法は使えないわね。超能力の応用でそれらしいものは作れるでしょうけど」

 なるほど、防御魔法の『天球壁』みたいにか。
 何にしても能力を通じてオレの適性が判明した。
 オレは魔法使いではなくて『超能力者』だったのだ。
 まあ、元々魔法使いってガラじゃなかったからいいけどさ。

「貴方は寿命を持つ人間だから、修行の方向性は超能力でやるべきよ」
「わかりやすい超能力の本とかある?」
「小悪魔」
「はい……どうぞ、こちらです」
「ありがとう、こあこあ」

 こあこあから『超能力の種類』という本を受け取る。
 強くなるための地盤はこれで整ったかもしれない。

「こあこあ、紅茶お願いしてもいい?」
「はい」

 パノの長々とした説明でオレはくたびれました。
 こあこあの紅茶でも飲んで休むことにしよう。

「むっ、これは?」

 席についた時、テーブルに置いてある『文文。新聞』を見つける。
 何気に目を通してみるとオレの記事が載っていた。

「よしよし、ちゃんとオレが写らないようにしているね」

 なにしろオレは極度のカメラ恐怖症だからな。
 オレにカメラを向けて撮影するな、という脅しをスイスイに頼んでやってもらった。
 天狗達は鬼の存在を恐れているから効果は抜群である。
 しかし……。

「な、なんじゃこりゃあ!?」
「鬼心さん、どうかしましたか?」
「こあこあ、オレの通称が『一撃屋』になってる!?」
「あ、はい。数々の強い妖怪や人間を相手に一撃を当てたとかで」
「それで一撃屋か? オレはそんな商売してないって!!」
「でも天狗さんが広めてしまってはもう手遅れかと」

 勝手に一撃屋の開業なんてするなっつーの!!
 あー、すっごく嫌だけど内容を見ていこう。
 仕事の内容は挑戦者と勝負をするというシンプルなもの。
 報酬は挑戦者が楽しめたかどうかで決まる。
 支払いに関しては、お金や食料など挑戦者に任される。

「フミフミめ、オレの断りもなく……」

 まあ、オレみたいな弱い人間を相手にしないだろう。
 そんな風に思って記事を読み続けていると……。

「ぎゃお!! メチャクチャいるよぉ〜!!」
「ちょっと貴方、図書館では静かにしてくれる」
「パノ、ちょっとこれ見てくれよ!!」
「あらっ、仕事ができて良かったじゃない」
「良くないって!! 挑戦者の候補リストに紅魔館のメンバーがいるぞ!!」
「レミィは退屈しのぎ。妹様は約束、美鈴は稽古相手ね」

 補足コメントにもレミレミは退屈しのぎの一言だけだ。
 フラちゃんは弾幕ごっこの約束ということで凄く楽しみにしている。
 でもマリマリに勝てたらという条件だからまだ戦えない。
 リンさんは一緒に稽古ができる相手が欲しいみたいだ。

「永遠亭だと因幡てゐ……うさうさか?」

 トラップを破った人間ということでライバル意識に燃えているらしい。
 いやいや、あれを破ったのはスイスイだって。
 オレは助言しただけでライバルなんてとんでもない。

「八雲家から姐さんとチー姉ちゃん……おいおい」

 チー姉ちゃんは遊び盛りの妖獣だからまだ理解できる。
 でもね姐さん、なんであんたも候補者になってるの!?
 可愛い子と遊ぶのが楽しいからと書いてあるけどさ。
 
「あー、やっぱりスイスイもいるのか」

 鬼心は私が鍛えたという鬼教官のコメント付き。
 弟子がどれだけ成長しているか直々に見てやるそうだ。
 スイスイは手加減しないから確実にオレが怪我するぞ。

「ゆ、ゆかさんまで……まだ苛め足りないのかよ」

 この妖怪お姉さんのコメントは見ない。
 見なかったことにする。絶対に拒否だ拒否!!

「マリマリは言うまでもないな」

 骨のある人間ってことで認めてくれている。
 まさに弾幕仲間って感じだ。

「ルミルミとチルチルとコサちゃんもいるの?」

 肉が食べたいのだーという肉食コメントのルミルミ。
 あたいさいきょーだしという意味不明コメントのチルチル。
 次こそは驚かせてやるという燃えコメントのコサちゃん。
 こいつら、本当にうるさかったな。

「白玉楼からはゆゆさんとみょんか」

 ゆゆさんは一緒に舞ってみたいというお誘いか。
 あの亡霊さんの踊りはダメージが大きすぎるから遠慮したいな。
 みょんは剣を通じて共に高めたいという温かいコメント。
 ああ、健全な感じがしていいなぁ。手合わせの約束はちゃんと守るからね。

「妖怪の山からはフミフミか」

 記者として一撃屋の実力を定期的に調べたいらしい。
 いやフミフミよ、あんたのスピードはマッハすぎるから無理だ。

「死神のこまっち……遊ぶヒマがあるなら仕事やれよ」

 仕事の息抜きなんかで人間を相手すんな。
 変わった人間だから暇つぶしになりそう、なんてコメントあるけど。
 オレはやらんぞ。死神からお迎えが来るみたいで縁起が悪い。

「あとは知らん連中だけど本当に多すぎる」
「人気者は辛いわね」
「パノの魔法で何とかできない? 一撃屋の廃業とかさ」
「無理ね。これだけ広まって候補者が集まっていたら私の魔法でも止められないわ」
「あ、あの……が、頑張って下さいね」
「こあこあよ、オレは頑張りたくない」

 ああ、オレも引きこもりになろうかな?
 でも下手すると向こうからやって来そうだし。
 これは成るようにしか成らないや。

「むっ、この記事は?」

 挑戦者リストの他に面会候補リストがある。
 オレと直接会って話がしたいという方々がいるらしい。
 ふむ、とりあえずリストを見てみようか。

「人里からだとケネケネさんとあっきゅんか」

 熱血先生は後悔コメントを残している。
 あの時、私が引き取っていればこんな事には……。
 こらこら!! 勝手に不良扱いしないでおくれ!!
 あっきゅんはもっと可愛い服をオレに着て欲しいそうだ。
 いやです。女装はもうお腹いっぱいです。

「古明地さとりさんは地底のボスみたいだな」

 ワタ・筋肉坊主・モグがオレのことをよく話すそうだ。
 それでオレの心に興味があるらしい。
 まあ、モグ達が世話になっているのでいずれはお礼を言いたいと思う。

「命蓮寺の聖白蓮さんと雲居一輪の相方である雲山さん?」

 聖白蓮さんはオレが妖怪退治屋をしていた事で話がしたいそうだ。
 なんでも妖怪を一体も殺さずに助けたことで関心があるとか。
 雲山さんは性根の真っ直ぐな人間を見たいと言う。
 オレが真っ直ぐかどうかは知らんけど。

「四季映姫・ヤマザナドゥ……これって閻魔? マジ?」

 プライベートの時間に会ってオレに説教をする予定らしい。
 えぇ〜、わざわざそんな事をしなくてもいいじゃん。
 どうせオレの寿命が尽きたら裁判で会うのにさ。

「す、凄いですね。閻魔様が直々に名乗り出ているなんて」
「役に立つ勉強はするけど、説教は嫌だ。会いたくない」
「無駄よ。彼女は『白黒をはっきりつける程度の能力』を持っているから」
「白黒をつけるのは性分としては合うけどさ」

 もういいや。これ以上は精神的に疲れてしまう。
 オレは文文。新聞を折りたたんで紅茶を飲み干した。
 ちょうどその時。

「鬼心、あそぼぉ〜♪」
「あーフラちゃん、そろそろ来ると思っていたよ」
「すごぉーい。どうして私が来るってわかったの?」
「オレの直感。それより、広間で飛行機ごっこして遊ぼう」
「うんうん、じゃあ早く行こう♪」

 飛行機ごっこ、別名は馬乗りごっこ。
 オレの背中にフラちゃんを乗せて、飛び回ったり駆け回ったりする。
 ただ、それだけの事だけどフラちゃんは楽しんでくれる。

「ま、スピードアップの修行も兼ねてるけどね」

 スイスイは何事も走ることが基本だと教えてくれた。
 それは何も地に足をつけて走るばかりではない。
 加速して空を飛ぶことだって走ることと同じなのだ。

「わぁー♪ 鬼心、前より早くなってるぅ♪」

 ただ、この遊びは場所を考えないといけない。
 通路でやると妖精メイドたちとぶつかるしね。
 こうして、オレは飛行機ごっこという名の修行を続けた。

「あ、そろそろ食事の時間だ」
「おうっ、じゃあ一緒に食べるか?」
「うん」

 フラちゃんと一緒に夕食をとる。
 相変わらず吸血鬼の食事って血の匂いがするよな。
 そういえばリンさんは……まさか。

「咲さん、リンさんは吹雪の中でも門番をするんですか?」
「はい。たとえ雨であっても吹雪であっても仕事は仕事です」
「こんな日ぐらい門番を休んだらいいのに」

 リンさんのことだから吹雪の中でも居眠り……寝たら死ぬのでは?
 まあ、妖怪で気功術が使えるから大丈夫なんだろうけど。

「あ、フラちゃん。口元が汚れてるよ」

 メイド長代理をしていた頃のクセなのか。
 オレはフラちゃんの口元を拭いてクセ毛も綺麗に整えてやった。
 
「あはっ、お姉様が気に入るのもわかっちゃうな」
「気に入る? なんの話?」
「鬼心がお姉様のお気に入りっていう話だよ」
「フラちゃん、それは違う。レミレミのお気に入りは咲さんだよ」
「うーん、そうかな?」
「そうだって。咲さんは紅魔館にとって絶対に必要な存在だから」
「鬼心、そのように褒められてもおかわり以外は出ませんわ」
「じゃあ、おかわり」

 フラちゃんは楽しく食事ができて満足している。
 一人で食べるより誰かと一緒のほうがいいらしい。
 オレは一人で静かに食事をするのも悪くないと思うけどな。

「咲夜、食事は出来ているわね」
「はい、こちらに」
「レミレミ、なんでオレの隣に座る?」

 席の位置からしてお前は当主だから上座のテーブルだろ?
 なんでわざわざ下座の席であるオレの隣に座るのか?

「文句でもあるの?」
「別に。フラちゃん、やっぱりこいつはオレなんて気に入ってないって」
「フラン、このバカになにを話したの?」
「えーとね、お気に入りの話。お姉様って鬼心のこと好きなんでしょう?」
「「それはない」」

 ハモったところでレミレミが睨みつけてくる。
 屈辱を受けたのはオレも同じだから睨み返す。

「わあー、今すっごく息がピッタリだったよ」 
「レミレミ、真似するんじゃねぇよ」
「あんたこそ真似しないで。殺すわよ」
「殺されてたまるか。フラちゃんゴー!!」
「えぇ〜? 鬼心はやらないのぉ〜?」
「あとで紅茶作ってあげるからゴーゴー!!」
「もぉー、しょうがないな。でも今はお食事中だからダメだよ」
「あー確かに。オレもメシに集中する」

 結局は食事を優先することにした。
 あとでリンさんもやって来て食卓が賑わっていく。
 あーあ、早く吹雪がやんでくれないかなぁ〜。



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