幻想郷に来てからは日程や時刻を気にしなくなった。 何月何日になっていようとオレには関係のないこと。 時刻だって朝・昼・夜の天体で判断すればいい。 そんなオレでも季節というものは感じる。 「すげぇ〜」 今のオレは香霖堂に向かって空を飛んでいる。 山や森には白い雪の模様が描かれていた。 吐く息も真っ白に染まりまさしく白の世界である。 「こんな寒い日でもコリコリさんの店はやってるかな?」 スイスイから見舞い品として貰った酒樽。 下戸のオレは飲めないし、紅魔館の連中には口に合わない。 それならばとアイテムで世話になったコリコリさんに贈ることにした。 「お酒だって飲んでくれる者に渡ったほうが喜ぶしな」 何気に地上を見ていると気になるものを発見する。 朱色がかった濃いピンク色をした羽根。 綺麗な色合いだったのでちょっと興味が湧く。 気付かれないように地上へ降りて様子を見た。 「……妖怪だよな?」 羽根の色は珍しいけど、それ以外はありふれた鳥の妖怪少女。 そんな鳥妖怪が道端に座って楽しそうに本を読んでいる。 邪魔したら悪いからとオレは立ち去ろうとしたが。 「っ!!」 この名も知らない鳥妖怪に不意打ちの危険を察知した。 オレはすぐさま駆けつけ、鳥妖怪を抱きかかえて横っとびする。 「えっ?」 状況が呑み込めない鳥妖怪が暢気な顔を見せた。 オレはその場から数十メートル先まで避難する。 さっきまで鳥の妖怪が座ってた場所に不意打ちの痕跡。 陥没しているように見えるのはきっと気のせいだろう。 「ちょっと、邪魔しないでもらえる」 「レムレム……」 鳥妖怪を下ろしてからレムレムと視線を交える。 どうやら買い物帰りみたいだけど……。 「今は不意打ちごっこが流行っているのかな?」 「違うわ。何となく退治するだけよ」 「なんとなくで退治すんな」 普段からグータラ巫女をしているくせに。 気まぐれにも程があるだろう。 「な、なに? なんなの?」 「あそこの気まぐれ巫女があんたを退治しようとした」 「っ!!」 鳥妖怪が本を抱えてレムレムを警戒する。 オレは鳥妖怪の前に立ってさらに話しかけた。 「レムレム、妖怪が攻撃してきて反撃するのなら正当防衛でわかる。でも、今見た限りではどう考えてもレムレムの不意打ちが酷いぞ」 「で?」 「妖怪が座って読書するのは悪いことじゃないだろ。退治をする理由にはならない」 「理由ならあるわ」 「どこに?」 「巫女は妖怪を退治するものよ」 ああ、こりゃダメだ。説得するのは無駄だとわかった。 まあ、別にレムレムは陰陽連と違って妖怪を殺す訳ではない。 彼女の言う退治とはあくまでも倒すことだ。 「ひとつだけ質問する。見逃すつもりは?」 「ないわ」 巫女の仕事にケチをつけるつもりはない。 ただ、この鳥妖怪には罪がないからオレは助ける。 それに噂に名高い博麗の巫女と戦える絶好の機会だ。 「おりゃあ!!」 掛け声と共に右手で作った霊妖弾を投げる。 レムレムはお払い棒でアッサリと打ち返してきた。 「ちっ!!」 オレはしゃがみ避けすると同時に。 「ぐっ!!」 レムレムの蹴りを察知してX字のガード。 木の近くまで吹っ飛ぶが両足で踏ん張って耐え切る。 さすがに最強巫女の蹴りはすげぇな。 「おっ!?」 鳥妖怪がレムレムの後ろから妖弾を当てやがった。 しかも巫女のスカートにまで切り口をつけるなんて。 あのレムレムにしては珍しく油断したな。 「よくもやってくれたわね」 「先に喧嘩を売ったのはレムレムだろう」 オレは呆れながら鳥妖怪の傍につく。 ちょうど鳥妖怪を庇うようにして前に立つ。 「なによ。私とやるつもり?」 「弱い者いじめが嫌いなんで鳥妖怪に加勢する」 「苛めじゃないわ。妖怪退治よ」 巫女ってヒマなんだね。 わざわざ通りすがりの無害な妖怪を相手するなんて。 「ねえ、あんただれ? 人間がなんで妖怪をかばうの?」 「オレは鬼心。助ける理由はオレがそうしたいからだ」 さて、お喋りはあまりできないぞ。 レムレムの弾幕は待ってくれないから。 創造の柄を剣にかえて手短に作戦を伝える。 「オレは接近戦で気を引く。鳥妖怪は妖弾を撃て」 「あっ……」 鳥妖怪の確認を取るヒマなく、オレは前に体重をかけて一気に踏み出す。 レムレムの弾は追尾型なのか、一度避けてもまた襲ってくる。 これでは踏み込めずにやられてしまうので……。 「いくぜ!!」 レムレムの背中の位置を見ながら左の指二本をおでこに当てる。 弾が当たるギリギリのところで瞬間移動。 レムレムの背後から一刀両断を仕掛ける。 「ちっ!!」 オレは思わず舌打ちをした。 レムレムよ、後ろを向いたまま避けんなよ。 どんだけ余裕あるんだ!? 「神霊」 レムレムが懐から一枚のスペルカードを取り出して宣言。 い、いきなりかよ!? おい土樹!! お宅の巫女さんは全然容赦してくれないぞ!! 「遮符」 こちらもスペルカードを発動させる。 危険を察知する能力で無謀だと出てるけど仕方がない。 ……どっちにしても食らうから!! 「『夢想封印』」 「『天球壁!!』」 オレのシャボン玉のような膜はレムレムの七色弾幕で瞬時に潰される。 その弾幕に包まれるようにして吹き飛んでしまった。 まさに爆発を受けたような派手なやられっぷりである。 「うぅ……」 人間退治は管轄外らしく手加減はしてくれたようだ。 しかし何なんだよ、あのイカサマのような圧倒的な実力差は? あいつは本当に人間か? 人間に化けている怪物じゃないのか? 「でもな一発や二発を食らったぐらいで……おねんねしてられないよ!!」 打ち震えながらも懸命に立ち上がる。 鳥妖怪が必死に抵抗して妖弾を放ち続けていた。 オレも両手に霊妖弾を生成して加勢に入る。 「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」 やっぱりレムレムは人間を超えた存在だ。 オレと鳥妖怪の弾が自動的にレムレムを避けてしまう。 そんな錯覚を起こすぐらいに向こうの動きが読めない。 「もおー、面倒ね」 や、やばい!! またスペルカードだ!? 狙いは鳥妖怪のほう!! あれを食らったらまずい!! 「ちっ!!」 鳥妖怪の真正面まで瞬間移動。 それからスペルカードを取り出す。 「下がれ鳥妖怪!! 巻き込まれるぞ!!」 「なによ、また邪魔するつもり? 次は手加減しないわよ」 「あまりオレを雑魚だと思って舐めないほうがいい」 「あ、そう……神霊『夢想封印』」 「防符『専心防御!!』」 X字ブロックの構えで防御力を高める。 あとはひたすらにやせ我慢を続けるだけのスペルカード。 だが、レムレムの七色弾幕は到底耐えられるものではなかった。 「……む……ね……ん」 二回目は本当に手加減がなかったかも。 そのまま落ちてしまって瞬く間に意識を失った。 ………………。 …………。 ……。 「ねえあんた、死んでないよね?」 「ううっ……」 「わわっ、人間のくせに頑丈だね」 雪の道をベットにして仰向けに倒れている。 目の前には怪我を負っている鳥妖怪。 まあ、オレも相当な怪我をしているみたいだが。 「ったく、身体がギスギスするぞ。どれだけ寝てたんだろう?」 「まだそんなに経ってないよ」 「そっか。レムレムは?」 「あの赤いのなら私達をコテンパンにして行っちゃった」 なるほど、この道端で残っているのはオレと鳥妖怪だけか。 どっちも服がボロボロで酷い有様だ。 まぁ、執事服は新調してもらえばいいのでそこは気にしない。 しかしだ……大切なことがひとつ。 「なあ、オレの厚底くんを知らないか?」 「誰それ?」 「靴だよ。オレの靴」 「あんたの武器と靴ならあの赤いのが奪ったよ。スペルカードの弁償代とか言って」 「……なんだと?」 お、オレの厚底くんが……あのグータラ巫女の手に? 嘘だろ……そんな……そんな……。 「私の大事な本まで奪って――っ!?」 「うわぁあああああああああああああああああああ!!」 命の次に大事なオレの厚底くんがぁ〜!! あのグータラ巫女めぇええええええええええええ!! 「あ、ちょっと!! あんた、どこに行くつもり!?」 「香霖堂だよ!!」 痛みなんて全然感じない。それどころじゃなくなった。 あのグータラ巫女ならアイテムを質に入れるだろう。 となると珍しいものを求める香霖堂しかない。 「落ち着きなよ!! あんた一人じゃどうにもならないって!!」 「刺し違えても取り返す!! 厚底くんはオレの宝であり大事な相棒だ!!」 「私だって大切な本を奪われて腹が立ってるよ。だから……」 「だから何だ!?」 「共通の目的があるのなら一緒に行こう」 「むっ? つまり、手を組むってことか?」 「そうだよ。そのほうがお互いにメリットがあっていいでしょう」 戦力は多いに越したことはない。 この鳥妖怪は不意打ちをするのが上手かったしな。 実力的には土樹と互角かそれ以上と考えられる。 「了解したぞ、鳥妖怪」 「その鳥妖怪ってやめてくれる? 朱鷺子って名前があるんだから」 「じゃあ、とっきゅんだ」 「な、なにそれぇ!? 私をバカにしないで!!」 「オレはあだ名をつける程度の能力を持つ人間だ。あだ名は譲れないぞ」 「……あんたと組むのやめようかな」 呆れまくりだな、鳥妖怪よ。 だがな、オレは断固として引かない。 「悪いけど、あだ名は誰が相手であってもつけるんだ」 「そういえば、あの赤いのにもあだ名をつけていたよね? 知り合い?」 「知り合いの知り合いだ。オレとは接点がないから他人同士だと思ってくれていい」 レムレムのことだ。オレのことは覚えてないだろう。 人とか妖怪とかに無関心って感じのグータラ巫女だから。 そのくせに今みたいな気まぐれ退治をしたりするんだよな。 「もういいよ、そのあだ名で。その代わり、あんたの名前を教えてよ」 「鬼心だ。さあ、時間が惜しいから急ごう」 オレととっきゅんは香霖堂まで飛んでいく。 移動方陣は失敗する可能性があるから使わない。 「……」 入り口まで来ると扉越しにレムレム達の声が聞こえる。 間違いない。強奪した犯人はここだ!! 「さっきの赤いの、居るのはわかっているわ!! ヒトの本勝手に持ってったでしょう!!」 「グータラ巫女!! 今すぐオレの厚底くんを返しやがれ!!」 とっきゅんの拳とオレの蹴りで同時に扉をぶっ壊す。 怒りの乱入をした先にコリコリさんの服を着たレムレムがいた。 湯のみを両手にしてお茶を飲んでいやがる。 「まったくしつこいわね。私に負けたんだから大人しく森に帰ってればいいのに」 「生憎、オレは森に家を建てた覚えはない」 「あれー赤くない?」 「今日はブルーなのよ」 「とにかく、私の本返してもらうわ!!」 「オレの厚底くんも返せ!!」 「まぁ返せってもねぇ。すでに私のところにはないのよ。諦めなさい」 「酷い……」 ショックを受けているとっきゅんの肩に手を置く。 「とっきゅん、ここはオレに任せて」 「えっ?」 オレは静かにコリコリさんの所へ歩み寄った。 「コリコリさん、とっきゅんの本とオレの厚底くんを返して下さい」 「僕の店にあるという証拠は?」 「レムレムが貴方の服を着ているということはそれだけ長く居るという証拠」 奪われたのはつい先程のこと。 オレととっきゅんはすぐにここへやって来た。 レムレムは貧乏巫女だからお金がない。 手元にないということはコリコリさんの店で売却したと考えるのが自然である。 「おぉー!! あの鬼心が名推理してるぜ!!」 「マリマリ、オレは厚底くんのためなら名探偵になるよ」 「まぁー、確かに僕の所にあるんだけど」 「けど?」 「僕も商売をしている身だから。返せと言わせても困るんだ」 「スイスイはオレに教えてくれた。欲しいものは『力ずく』で奪い取れと」 「ず、随分と物騒なことを教えてもらったんだね」 いくら世話になっているとはいえ厚底くんは特別だ。 隠してある銀色ナイフでコリコリさんを――。 「ほらっ、魔理沙!! あんた暇そうにしてるじゃない」 「あー? 何だ? 自分で撒いた種だろうが。一人でやれよ」 「こんな服じゃまともに動けないのよ」 嘘つけ!! イカサマ級の強さを持っているくせに!! じゃあ何か、あの巫女服じゃなければどんな事態であっても戦えないってか? そんなバカげた話は幻想郷といえども聞いたことがないぞ!! 「大して面倒じゃない相手よ、魔理沙なら。でも後ろからの攻撃に気をつけてね。あと挟み撃ちも」 「復讐の相手を私にやらせようっていうのか。まったく霊夢って奴は……」 そう言いながらマリマリが機嫌良さげにオレ達の前に来る。 ああ、戦う気満々ってことかい。 そうだな、マリマリってそういうやつだったな。 「お代はツケでね」 レムレムよ、巫女のくせに買収するな。 マリマリもオレの頭を軽々しく撫でるな。 「お前ってあの靴がないと本当に小さいな」 「なんだとぉ〜、マリマリだって小さいくせに」 「お前よりは高いぜ。という訳で代わりに私が――」 「ちょっと待った、マリマリ」 「なんだ? 諦めて大人しく帰るのか?」 「いや、前々から思っていたことがひとつあってな」 今の状態でまともに戦っても勝ち目はない。 かといって諦める気はこれっぽちもない。 それなら……。 「マリマリってさ、もしかして八卦炉なかったら何にも出来ない魔女だったりする?」 「おいおい鬼心、そいつは聞き捨てならないな」 「オレの創造の柄はマリマリの八卦炉のようなものだけどさ。今、レムレムに奪われて売却されたままだ」 怒りを通り越して頭の中で計算を始める。 どのようにして取り戻すかを一生懸命に考えて口を開く。 「でもオレは肉弾派だから、柄がなくても戦える。だけどマリマリはどうかな?」 「むっ?」 「やっぱり八卦炉がないと戦えない? 創造の柄がないオレと戦う時でも八卦炉を使う?」 「ふっ、言ってくれるね。いいぜ、お前もそいつも傷だらけでハンデがあるしな」 よし、挑発に乗ってくれた。 これでマリマリは八卦炉を媒体にした攻撃魔法が使えない。 戦いの主導権をこっちが握ってやる。 「マリマリ、表へ出てくれ。ここではコリコリさんに迷惑だ」 「その気遣いは扉を壊す前にしてほしかったよ」 「それだけオレもとっきゅんも怒ってるんですよ。マジギレなんです」 こうしてマリマリと対決という流れになった。 だが、正直いって八卦炉抜きでもオレととっきゅんの勝率は低い。 オレは作戦タイムということでマリマリに待ってもらう。 「とっきゅんは妖弾以外に使える技はある?」 「ないよ。私は本を読むだけの妖怪だから。他に能力なんてないもん」 「わかった。レムレムと同じくオレが前に出て戦う。そっちは後ろで妖弾の攻撃な」 「大丈夫なの? 鬼心のほうが怪我してるのに?」 確かにオレのほうがダメージ大きいだろうな。 なにしろ、夢想封印を二回も食らっているから。 その状態で今度はマリマリとの勝負ときたものだ。 多少の時間が空いたとはいえ連戦するのはかなり辛い。 「とっきゅん、マリマリの弾は直線的だから避けやすいよ。でも攻撃力が高いから当たらないようにね」 「う、うん。わかったけど……私達、負けたらどうしよう?」 「負けても方法はあるから気にするな。今はお互いに全力を尽くせばいい」 「本当に?」 「ああ、だから思う存分にやろうぜ」 これで作戦タイムは終了。 先手必勝ということでオレから特攻を始める。 マリマリの弾幕をかわしながら前に突き進んだ。 でも怪我のせいか幾分かオレの動きが遅くなってしまい。 「ぐはっ!!」 隙を突かれて腹に一発を食らった。 間髪入れずに他の弾も襲い掛かってダウンする。 「どうだ、鬼心。私は八卦炉なしでも戦えるんだぜ」 「あんたなんて私がやっつけるよ!!」 「おっと――後ろからの攻撃にも注意だったな」 ちっ、避けやがったか。 オレが気を引いて後ろからとっきゅんの妖弾で攻撃。 そんな戦術はマリマリ相手には通じなかった。 マリマリが楽しそうに笑ってとっきゅんのほうにも弾幕を飛ばす。 「避けろ!! とっきゅん!!」 「ひぃーーーーー!!」 「あっはっはっは!! ほれほれ当たると痛いぞぉ!!」 「甘く見るな!! おりゃあ!!」 避けるのは面倒というか無理だ。 オレは拳に霊妖力を込めて弾を殴り飛ばす。 「おぉ!! 力技で来るとはお前らしいぜ!!」 他の弾が身体に当たっても我慢する。 オレは拳で跳ね返す弾をマリマリに向けまくった。 ここぞのタイミングで左の二本指を構えて瞬間移動。 マリマリの背後からハンマーナックルをかました。 「おっ〜、危ない危ない」 「ちくしょう」 「まずはお前から先に仕留めたほうがいいな」 「やれるものならやってみろ。オレはそう簡単にやられないぞ」 「知ってるさ。だから……マジでいくぜ」 「げえっ!!」 爆弾瓶なんて投げるやつがあるか!! 必死に逃げるけど爆発に巻き込まれて吹っ飛んでしまう。 さらにマリマリがホウキに跨って急加速でこっちへ向かってきた。 「ちょ、やりすぎ!?」 「彗星!! 『ブレイジングスター!!』」 くそぉ〜、オレはこれまでか。 そんな時、とっきゅんが横から飛んできて。 「えいっ!!」 オレを抱きかかえてマリマリの突進をかわしてくれた。 おかげで直撃は避けられたけど余波でかなり吹っ飛ばされる。 「とっきゅん、ナイスフォロー」 「うぅ……こ、怖かったよ」 「オレだって怖いわ。マリマリめ、爆弾瓶なんて使いやがって」 あいつ、人間の肉体を木っ端微塵にするつもりか? さっきのはかなりの爆発力だったぞ。 まあ、直撃は避けてくれてるみたいだけど。 「とっきゅんごめん。これ勝てんわ」 「そんな……」 「一旦引き上げよう。死んだら意味ないし」 「で、でも」 「おっと逃がさないぜ、二人とも」 甘いな、マリマリ。 オレ達を倒すつもりなら弾幕で攻撃したほうが確実だったぞ。 そんな風に真っ向から突っ込んでくれるなら。 「閃光弾」 「なっ!?」 マリマリの目をくらませての足止め。 その隙に。 「動符『移動方陣』」 香霖堂の店内に移動してしまうオレ達。 品物のところへガシャガシャと音を立てて落ちた。 うぅ〜、またワープミスをしてしまったか。 「いててっ……とっきゅん、大丈夫?」 「う、うん。あっ!!」 「どうした……おっ!!」 「き、君達ね。勝手に――」 「私の本があった!! あったよ!!」 「おぉ〜、オレの厚底くん!! 会いたかったぞぉ〜!!」 運よく目的の品が見つかった。 まさに不幸中の幸いである。 ついで創造の柄も置いてあったので入手OKと。 「まさに試合に負けて勝負に勝った!!」 「勝った勝ったぁ〜!!」 「あんた達ね、うるさいわよ」 いや、元はいえばあんたのせいだろうが。 まあいい。目的の物が手に入ったのだから。 「ちょっと君達。それはウチの商――」 「おいおい、お前ら。勝手にここに逃げ込むなんて卑怯だぜ」 「あー、マリマリ。今回の勝負はオレ達の負けでいいから」 「そうそう、もう私達の負けでいいよ」 「なんだかなあ……ま、霊夢のせいでああなったしな。これで万事解決だぜ」 「いやいや、解決と言われても僕が困るんだが……」 オレはこっそりと席を外して保管用のスキマを呼び出す。 そこから酒樽を取り出して皆のところへ戻った。 「皆さん、これで仲直りするって事でどうです?」 「おー、鬼の酒じゃないか!! よし、一緒に飲もうぜ霊夢」 「そうね。私は熱燗でお願いするわ」 「こーりんも飲もうぜ」 「う、うむ……」 「とっきゅんは酒いける?」 「いけるよ」 「じゃあ、オレの分まで飲んでくれ。オレは下戸だからお茶にする」 こうして皆で乾杯をして飲み会を楽しむ。 厚底くんが戻ってきて本当に良かった。 「コリコリさんって、なんで厚底くんまで引き取ったの?」 「その靴は幻想郷では再現できないほどに素材のこだわりが感じられたからね」 「この厚底くんは、住職の知り合いが作ったものなんだ」 靴職人をやっていて、丹精を込めて作ってくれた。 今は亡くなってしまって、これしか残っていない。 まあ、厚底くんはその職人さんの形見ということだ。 「そうか。それは悪いことをしたね」 「こちらこそ無理を言ってごめんなさいです」 「それはもう構わないが……ただ、あの本を手放すのは惜しい」 「とっきゅんが持っている本のこと?」 「そう。『非ノイマン型計算機の未来』の最後の三巻」 「シリーズ本? 残りはないの?」 「実は僕のところにある。あの三冊で全巻が揃うのに」 あー、そりゃあ辛いですね。 シリーズ本のすべてを揃えたくなる気持ちはオレでもわかる。 「とっきゅんと交渉したらどうです?」 「もちろんそのつもりだよ」 コリコリさんは酒を通じてとっきゅんと交渉する。 とっきゅんは二つの条件を出した。 安全に本が読める場所として香霖堂を提供すること。 香霖堂にある本を自由に読ませてほしいということ。 コリコリさんが悩んでいる。多分、メリットが少ないからだろう。 そんな時に土樹がやって来た。 「魔理沙はともかく霊夢がここにいるなんて珍しいね」 「良也さん、私がここにいたら変かしら?」 「うん、変だな。その格好も含めて」 「言ってくれるわね」 「あー、あんた!! あの時の!?」 むっ? とっきゅんと土樹は知り合いか? 土樹って本当に顔が広いやつだな。 「おっ、そういう君は……懐かしいけど名前がちょっと出てこない」 「もぉー!! 朱鷺子よ!!」 「あ、そうそう。いやー、元気にして――って怪我してるじゃん!!」 「あの赤い……赤くないけどやられたの!!」 「鬼心君も怪我してるけど……もしかして」 「ご明察の通りだよ。酷い目にあった」 「霊夢、お前ってやつは……」 「なによ、私は巫女として当然のことをしたまでよ」 それはさておき。 コリコリさんの件は土樹の働きにより交渉が成立した。 なんでも、とっきゅんは他の本も隠し持っているとか。 それを香霖堂に提供することが成立の決め手となったのだ。 |
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