苦心の末、やっと修業(?)から解放された。
 ゆかさんとスイスイのダブルトレーニング。
 それはもう言葉に尽くせないほどの最凶であった。
 これだけは言わせていただこう。
 お前ら!! 人間をなんだと思ってるんだぁあああああ!!

「あぁ〜、生きてるって素晴らしいなぁ〜」

 ゆかさんは別の花を求めてどこかへ消えた。
 スイスイも別の酒を求めてどこかへ消えた。
 どっちもマイペースでオレのことなんて放ったらかしだ。

「あ、スイスイに文句を言うの忘れてたな」

 スイスイが紅魔館で酒を飲み尽くしたせいでオレに請求書がきた。
 返済のためには一ヶ月のメイド副長をしなければならない。
 と、その前に……。

「服をなんとかしないとな」

 あの二人のせいで服がズタボロになっている。
 なんとか原型を留めているが見苦しい事この上ない。

「仕方がない。こういう時は土樹に頼るか」

 たしか博麗神社に住んでいたはずだ。
 いるかどうかはわからないけど行ってみよう。

「地図のハチマキで……方角はあっちか」

 空を飛んで神社のほうまで向かう。
 境内を掃除している土樹の姿を発見した。

「き、鬼心君!? どうしたのその格好は!?」
「ゆかさんとスイスイにやられた」

 あれは修業という名の過酷なイジメだと断言しておく。
 思い出すのも嫌だから記憶の奥底に封印した。

「とにかく上がって。あ、先に風呂入ったほうがいいね」
「すまん、助かる」
「霊夢、悪いけど風呂沸かしてくるな」
「ん〜、だれその子? 良也さんの子ども?」
「な、なんだと!! オレは子どもじゃない!!」
「落ち着いて鬼心君。霊夢はああいうやつだから許してあげて」

 煎餅をボリボリとかじり、熱いお茶を飲んでいる紅白の巫女。
 巫女服にしては変なデザインだな。肩や脇が露出しているし。
 寒い冬には向いていない服だと思う。

「オレは鬼心という人間だ。断じて子どもではないぞ」
「あ、そう。私は博麗神社の巫女をしている博麗霊夢よ」
「霊夢だからレムレムでよろしく」
「まぁ、好きにすれば」

 うわぁー、全然やる気なさそうなグータラ巫女だ。
 こんなんで生活やっていけるの?
 土樹が働いてレムレムを養っているとしか思えない。

「鬼心君、お風呂の準備ができたらどうぞ」
「ありがとう」

 レムレムの危険性は今のところ感じない。
 賽銭箱を壊したり、食べ物を盗まなければ大丈夫みたいだ。
 実力については計り知れないので何とも言えない。

「あ、着替えはどうしようかな? オレの服ではサイズ合わないし」
「私が用意するわ」
「お前が動くなんて珍しいな」
「人の神社で裸になられても迷惑だから」

 ま、そりゃあそうだな。
 それにしても、久々に入る風呂はとても気持ちがよかったぞ。
 場所の狭さについては特にこだわらないので問題ないし。

「さて……」

 丁寧に身体を拭いて髪の手入れをする。
 最後にはちゃんと乾かしてポニーテールにした。
 籠に入っている着替えを手に取ると……。

「……マジで?」

 レムレムよ、服を間違えてないかい?
 他に服がないかを探してみたけどこれしかない。
 仕方ないので、レムレムの用意した衣装を身に纏った。

「さて……」

 レムレムと土樹がいる和室へ向かう。
 ふすまを開けてオレが入った途端。

「霊夢って妹がいたっけ?」

 土樹のふざけた発言に前方回転の踵落としを一発。
 さらに外に放り投げて霊妖弾をぶち当てた。
 境内で土樹が気絶したけどムカつくので放っておく。

「レムレム、この服ってなに?」
「私が幼い頃に着ていた巫女服よ」
「巫女服以外にないのか?」
「ないわ」

 メイド服の次は巫女服かよ。
 まぁ、スカートがロングになっているのはマシだけどさ。
 でも、上半身の肩や脇が露出しているのはどうよ?

「ねぇ、そんなことよりご飯作って」
「なんでオレが? それは土樹の仕事だろ?」
「あんたが吹っ飛ばしたせいで使い物にならないわ」

 蓬莱人だからすぐに復活するだろうに。

「それに風呂や衣装を貸してあげたのよ」

 風呂は感謝するけど衣装に不満ありだ。
 このグータラ巫女は働く気ゼロかい?
 利用できるものは何でも利用するって感じだな。

「はぁ〜、リクエストはある?」
「食べられるものなら何でもいいわ」

 そういうのが一番困るんだけどな。
 ま、逆らっても痛い目を見るだけだし。

「調理場まで案内よろしく」
「面倒くさいわね」
「生憎、オレはこの神社に詳しくないので」

 案内された調理場をじっくりと見せてもらう。
 食器や刃物の類は特に問題ないな。
 丁寧に使い込んでいるのがよくわかるよ。
 材料や調味料もそれなりに揃っているから大丈夫だ。

「了解。出来たら部屋まで持っていくよ」
「なるべく早くしてよね」
「へいへい」

 ご飯といったら釜戸だね。火付けの空間に薪を入れて指先から火を放つ。
 以前なら火の術は苦手で使えなかったけどスイスイが教えてくれた。
 火力はスイスイに遠く及ばないけど、焚き火ぐらいならオレでも作れる。

「土鍋にダシを作り♪ 川魚と根野菜を切り刻んで♪」

 ノリノリで調理に取り掛かってしまう。
 ゆかさんもスイスイも食事はオレに任せてばっかり。
 まぁ、二人とも美味しく食べてくれたからいいけどさ。

「ほいほいっと」

 出し汁を張った土鍋に切った川魚と根野菜を入れる。
 こっちにも火をつけてしばらく様子を見た。

「鬼心君、なにを作ってるの?」

 復活した土樹が顔を出してくる。
 ホント、蓬莱人って便利なものだね。
 人間のオレでは回復するのに時間が掛かるのに。

「出来てからのお楽しみだ」
「そっか。何か手伝えることはある?」
「茶碗とスプーンと温かいお茶を用意して部屋まで運んで」
「わかった」

 よっしゃ、釜のご飯はバッチリできた。
 最初の頃はべちゃべちゃだったり固かったりで食えたものじゃなかったな。
 そのたびに咲さんからの厳しいお仕置きが――。

「考えるな考えるな。あれは忘れよう」

 ご飯を土鍋にドボーンと入れて突き崩す。
 あとは沸騰するまで待てばいい。

「余ったご飯はおにぎりにしておくか」

 おっ、ちょうど海苔が置いてある。
 幻想郷は海がないらしいから海苔はないと思っていたのに。
 多分、土樹が持ってきたんだろうな。

「おにぎりに海苔と梅干しは欠かせない」
 
 梅干の壷からちょっと使わせてもらった。
 作ったおにぎりは皿に乗せておく。
 土鍋が良い感じで出来上がったので火を消した。
 この鍋と鍋敷きを食卓となる部屋まで運ぶ。

「お待たせ」

 小さめのちゃぶ台の脇に鍋敷きを敷き、料理の入った鍋を置く。
 後はここから好きなだけ取っていけばいい。
 あ、おにぎりを入れた皿も持ってこないとな。

「鬼心君、これって雑炊?」
「そうだよ。あ、ご飯余ったからおにぎりも作っておいた」
「ま、なんでもいいわ。いただきます」
「「いただきます」」

 三人で両手を合わせて食べ始める。
 さて、味のほうは?

「美味しいよ、鬼心君。もしかして僕より料理上手いんじゃない?」
「一応、咲さん直伝だから」
「随分と物好きな子ね。あのメイドに教わるなんて」
「咲夜さんの指導ってかなり厳しかったんじゃない?}
「ああ、この上なくな」

 オレはおにぎりにかぶりつく。
 海苔と梅干しの香りが食欲をさらに高める。
 温かいお茶ともよく合うぞ。

「霊夢、僕のお茶の味はどう?」
「七十点ね」
「えぇ〜、僕にしてみれば九十点ぐらいだと思ったのに」
「この程度で満足しているようではまだまだよ」
「ちぇっ、相変わらず厳しいな」

 土樹とレムレムの呼吸がピッタリだ。
 この二人の生活はとても自然な雰囲気でやっている。
 そこに割り込んでくるのが……。

「やっほー霊夢♪ 遊びに来たよぉ♪」
「萃香、また勝手に霊夢の酒を飲んでるな」
「あんたね、人の酒をなんだと思ってるのよ」
「にゃはは、大丈夫だって。ちゃんと私の酒も分けてあげるから」

 酒があれば上機嫌のスイスイ。
 そんなスイスイが土鍋の雑炊に目を向けた。
 クンクンと嗅いでから無断で味見をする。

「これは鬼心が作った雑炊だね。いつもいい味してるよ」
「よくわかったね。それが鬼心君が作ったものだって」
「雑炊は鬼心の得意料理でな。私や幽香によく作ってくれたよ。これがあると酒がよく進むんだ」
「お前はなんでも酒の肴にするよな」

 ちなみにオレはレムレムの後ろに隠れている。
 なにしろ、今のオレはレムレムのお古を着ているので。
 スイスイのことだから、爆笑するに決まっている。

「ちょっと、勝手に私の後ろにつかないでくれる」
「わわっ」

 押すな押すな。
 巫女のくせに力が強すぎるって。
 あー、スイスイに見つかってしまった。

「ぷっ!! あっはっはっはっは!!」
「わ、笑うな!!」
「巫女服も似合ってるよ。もうそのまま女になったらどうだ?」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
「そう言うなよ。私と幽香のおかげでお前は一段と強くなったぞ」

 よく言うよ。オレは普通の人間なのに。
 何度、三途の川を渡りそうになったと?

「ちょっと待って萃香」
「良也、どうしたの?」
「幽香って……もしかしてあの花の妖怪の?」
「そうだよ。あいつと一緒に鬼心を鍛えてやったんだ」
「……それ、普通に死ぬよ」
「オレは実際に何度も死に掛けたぞ」

 五体満足でいられるだけでも奇跡だったと思う。
 いくら危険を事前に察知できるとはいえ実力差がありすぎだ。

「鬼心君、そのときに小町に会った?」
「いや、誰かと会う前にスイスイに叩き起こされた。ゆかさんには水をぶっかけられた」
「萃香、どんだけ鬼心君を苛めてるんだよ。やめてやれよ、可哀想じゃないか」
「人聞きが悪いな。私はたっぷりと可愛がってるよ」
「だからお前の可愛がりは洒落にならないんだってば」

 スイスイ・レムレム・土樹の三人は酒を味わっている。
 オレがちょっとトイレに行って戻ってくると。

「なんでこうなる?」

 何故かマリマリ・レミレミ・咲さんが混じっていた。
 ……お前ら、いつの間に湧いてきたんだ!?

「いやぁ〜、雑炊なんて久しぶりだぜ」
「魔理沙、またキノコ酒を持ってきたのか?」
「刺激的な酒になって中々の出来だぜ。ま、味見はしてないけどな」
「しろよ!! 萃香、お前が飲め!!」
「よーし、良也と飲み比べ勝負だね」
 
 マリマリは土樹とスイスイに任せておこう。
 それにしても……。

「吸血鬼がうちの神社に来るなんてどういうつもり?」
「ふんっ、私はそっちのバカに用があるのよ」
「オレかよ!! それとバカって言うな!!」

 レミレミが宴会以外で神社に来るのは珍しいそうだ。
 たまに咲さんがおすそ分けで神社に来ることはあるみたいだが。
 さて、オレに用事となるとひとつしか思い浮かばない。

「なによ、霊夢の服なんて着ちゃって。こっちの従者になるつもり?」
「んな訳あるか。お前、またオレの運命を視たな」
「鬼心、寄り道は程ほどになさって下さい」
「咲さん、得意の忠誠でレミレミを止められない?」
「言っても聞かない方ですので」

 言っても無駄だから言わなかったのか。
 いやー、そういうところは咲さんらしいな。

「用件はメイド副長の件で間違いない?」
「はい。いつ頃に勤務されるのかを確認しに参りました」
「それなら咲さん一人で済む話だよね? なんでレミレミまで?」
「貴様、私がいることに不満でもあるのか?」
「はいはい、オレが悪かったよ。話が進まなくなるから本題に入ろう」

 オレには果たしたい約束がある。
 白玉楼にいるみょんとの手合わせのことだ。

「その約束を果たし終えたら紅魔館に――」
「うわぁ!! よせ!!」
「なぁ良也、いいだろ? たまにはお前の力が見たいのさ」
「見なくていいよ!! 魔理沙、助けてくれ!!」
「よーし、私が立会人になってやるぜ」
「そんな――うわぁあああああああああああ!!」

 スイスイが土樹を引っ張って空を飛び去る。
 それにマリマリもついていく。
 どうせスイスイが喧嘩を売ったんだろうな。

「それで、約束を終えたらこちらに?」

 咲さん、話を戻してくれてありがとう。
 コホンと咳払いをしてからオレは仕切りなおす。

「ああ、そのつもりだ。早ければ一週間程度で終わるとは思うけど。
 オレは剣術の素人だからな。指導を受けて長引く可能性が高い」
「では一ヶ月ほどの目安でいいのでしょうか?」
「ああ、そのぐらいが目安だね」
「ダメよ」

 レミレミがにべもなくそう言って割り込む。
 一瞬で斬り捨てるかのように容赦しない。

「一ヶ月も待たせるなんて私が認めないわ」
「出たよ。レミレミの我侭っ子が」
「なんですって……貴様、殺すぞ」
「死んでたまるか。今、殺されたら未練タラタラになるよ」

 レミレミって短気だからな。
 これ以上、話を長引かせると本当に殺されそうだ。
 そこでオレは……。

「咲さんに質問です。レミレミの仕事ってなに?」
「紅魔館の当主として威厳をもち、カリスマお嬢様として君臨することです」

 それってただの引きこもりじゃん!!
 とまぁ、内心の突っ込みは置いといて。

「レミレミ、オレについてこい」
「はぁっ!? 誰があんたみたいな下賎な人間と!!」
「紅魔館に支障が出るなら無理に勧めない」
「いいえ、全く問題ありません」
「ちょっと咲夜!!」
「お嬢様、ここで鬼心を殺しては酒代の未払いが生じてしまいます。
 それと鬼心は旅のトラブルに巻き込まれて死亡する可能性があります」
「勝手に殺すな」
「ですから、吸血鬼の誇りにかけてお嬢様が鬼心を見張ってはいかがでしょう?」
「無視かよ」
「……そうね。これは紅魔館の威厳を知らしめる絶好の機会よね」
「お前に威厳なんて――おっと!!」

 レミレミ、弾を飛ばすな弾を。
 あーあ、障子が破けてしまったではないか。
 絶対にレムレムが怒るぞ、ほら今まさに――。

「人の部屋で暴れるんじゃないわよ!!」

 変な模様をした大玉が飛んでくる。
 あれは見た目よりも威力が高そうだ。
 モロに当たったら鼻の骨ぐらい軽く砕けるかも。

 土樹の話によればレムレムはレミレミよりも強いらしい。
 弾幕ごっこでもレムレムが勝利しているとか。
 そんなレミレミの手を握って。

「な、なにをす――」
「動符『移動方陣』!!」

 スペルカードを発動させてワープする。
 まさか再びこの魔法を使える時が来るとは。
 リン師匠が太極拳を教えてくれたおかげです。

「よし、なんとかワープできたな」

 本当は紅魔館の門前に移動したかったんだけど。
 まぁ、屋根の上なら許容範囲ということで。

「あ、しまった!! 咲さんが!!」
「私ならこちらです」

 オレの袖を握って一緒にワープしたようだ。
 あの一瞬でよく判断できたな。さすがです。

「あんたね、軽々しく私の手を取るなんて無れふっ!!」
「お前、舌かんだな」
「かんふぇにゃい!!」
「はいはい、噛んでない噛んでない」

 どれだけ長生きしてるか知らないけどお前のほうが絶対に子どもだ。
 いつもオレを子ども扱いしているくせにな。

「さて……」

 約束を果たすために白玉楼に行きたい。
 でも、巫女服を着たままでは流石にまずい。
 レムレムにちゃんと返しておかないといけない。

「鬼心、私にお任せを」
「えっ、咲さんがレムレムの所までこの服を返してくれるの?」
「はい」
「でもこの服の代わりがないと」
「ご心配には及びません。こちらの衣装をどうぞ」

 い、いつの間に……また時間を止めたな。
 まぁいいけど、とっとと着替えて――。

「鬼心、お嬢様の前で着替えるのはやめなさい」
「なんで? スイスイはそんなこと言わないのに」
「構わないわよ咲夜。こいつはお子ちゃまだから言ってもわからないわよ」
「殴るぞ、お前」
「ふんっ、返り討ちにしてあげるわ」
「……着替える」

 返り討ちに遭う危険を察知して衣装を身に纏う。
 蝶ネクタイと黒をデザインとした執事服だ。
 ズボンになっているのが一番ありがたいな。

「って、オレはお前の執事じゃないぞ!!」
「うるさいわね。文句を言うなら剥ぐわよ」
「お嬢様、はしたない発言は控えてくださいな」
「咲夜、あんたねぇ〜」
「ま、それなりに動きやすい服だからいいけどさ」

 メイド服や巫女服より断然に機能的だと思う。
 どっちもスカートというのが苦手だったし。
 苦笑しているオレに咲さんが超大型リュックを渡してくる。

「ドッシリとしてますね。何が入ってるの?」
「お嬢様のお世話をするための一式です。詳しくは付属のマニュアルをご覧下さい」

 あのさ、オレはサンドバッグ風のダッフルバッグを持っているんだよ。
 さらに超大型リュックを背負って行けと?
 まぁ、スイスイとの修業でそれなりにパワーがついてるけどさ。

「貴方の場合、背負っているというよりも、背負わされているという感じですね」
「まぁ、大丈夫だよ。肉体を鍛える修業だと思っておく」
「そうですか。では鬼心、お嬢様をよろしくお願いいたします」
「なんですと?」
「当主不在の間、私が存分に留守を堪能もとい仕事に励みます」

 咲さん、あんたさレミレミを厄介払いしようとしてない?
 オレに押し付けようとする魂胆が見え見えなんですが?
 あ、咲さんが消えた。時間を止めてこの場から逃げたか。

「……」
「……」

 紅魔館の屋根の上に残されたオレとレミレミ。
 闇夜の紅い月に不気味な獣の鳴き声が遠くから聞こえる。
 いかにもホラー映画に出てきそうな嫌な雰囲気だ。

「神社の時についてこいなんて言ったけどさ。あれはもういいや。お前も帰れ」
「一度言ったことを取り消すつもり?」
「爪を立てるな爪を」
「そんなの私が許さないわ。吸血鬼の威厳をこの世界に知らしめてやる」

 オレ、なんでレミレミについてこいなんて言ったんだろう?
 こんな自分勝手で我侭な吸血鬼と一緒なんて冗談じゃない。
 今まさに後悔しまくっている。あの発言を消しゴムで消したい気分だ。

「お前、嫌がってたじゃん。下賎な人間と一緒なんて嫌なんだろ?」
「そうよ。あんたみたいな人間と一緒なんて不愉快だわ」
「わかった。じゃあ不愉快は人間は立ち去り――」
「待ちなさい。私はあんたの見張りよ。酒代を踏み倒されないようにするためにね」
「……行くぞ」

 半ばヤケクソになって紅い月が照らす夜空を飛んでいく。
 レミレミが文句を垂らしながらついてくる。
 それを適当に聞き流しながら目的地に向かった。



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