また満月の夜が来た。先月とは違い、虫は歌っていない。ただそれだけの違いで、時が過ぎるのは速いと思わせる。

昼頃に太陽の丘で幽香に花を貰った。物々交換だけど…僕には丁度良かった。外に花を買いに行こうかと思っていたけど、チョコレートと交換しただけで終わった。
外で花を買うより安上がりだ。
季節が変わる。それだけで、この間よりも空が綺麗に見える。実際には外の世界よりも何倍も此処の空も大地も空気も綺麗なんだけどね。
今日も片手に酒を持って、静かに屋敷を出る。

(今日も…途中から歩いていこう)

そう考えたのは、少し後ろめたいから。僕は今の生活に不満なんて無い。でも、物足りなさを感じている。
寂しいと思っている。悲しいと思っている。
全部が全部、自分の所為だ。頭の中で決着は付いているけど…心の中で決着が付いてない。

人里を迂回して彼女の元へ向かう。

墓石の前に立つと、花瓶から少し萎れてしまった花を取って地面に横たえる。花瓶の水も捨てる。

「水符『アクアウンディネ』」

長年使い続けて来た魔法。力の加減も慣れた。花瓶の水を入れ替えて幽香に貰った花を入れる。名前も知らない綺麗な花。
一つは知ってるけど、もう一つは菊に良く似た白い花。少し白が混じったような赤いスプレーギグの菊を囲うように渡された。
白と赤。

「そう言えば…紅白なんて呼ばれてたね」

幽香のセンスなのだろうか? 良く分からないけど、僕はこの彩りが彼女には有っていると思う。
腰を下ろして、酒を地面に置く。コップを二つ取り出して一つを墓石の前に、もう一つは自分の手の中に。トクトクと酒をコップに満たす。
ツマミは無い。本人が居たら文句を言われそうだ。そう考えたら、笑ってしまった。
酒を飲みながら他愛もない事を話す。人里の事、紅魔館の事、永遠亭の事、妖怪の山の事、守矢神社の事。
時が過ぎれば人も変わる。昔、僕に飴を集りに来た子供が今では子供が居るおじさんだ。その前の子はお爺ちゃん。その前の子達は墓の下。
何時の間にか、人里の人達が自分の子供の様に思えてきた。そんな事を、此処には居ない彼女に話す。

話し終わると丁度、酒も無くなっていた。良い頃合何だろう。彼女に叱られているのかも知れない。

「…帰るか」

立ち上がろうとしたら、後ろから肩を押さえ込まれストンとまた座り込む事に成ってしまった。

「まだまだ、お酒は有るわよ?」

「そうだぞ? 取って置きを持って来てやったんだ。もう少し飲もう」

「輝夜に…妹紅? 何で?」

驚いた。何時までも仲の悪い二人が喧嘩もせずに一緒に居るなんて!!

「クスクス、良也。私も居るわよ?」

「永琳まで…どうしたの?」

「まぁ、良いじゃない。満月の夜だもの、外で酒を飲むのも一興だと思わない?」

永琳はそう笑いながら、空いたコップに酒を注いだ。







酒を飲み始めると、何時も通りの結果に成った。

「だから私の方が早かったじゃない!!」

「いいや!! 私の方が早かったね!!」

何時も通りの二人の喧嘩。弾幕勝負じゃないから良いけど…二人とも懲りないなぁ。
でも、そんな二人を見ているのは楽しい。

「ホラ、コップが空に成ってるわよ?」

「あ、ありがとう。永琳」

注がれた酒を一口飲む。流石取って置き、美味い。ツマミも美味い。月も綺麗で空も綺麗だ。

「やっぱり…あなたはそうやって笑っている方が良いわ」

「? 意味が分からないんだけど? 酔ったの?」

「違うわよ。ねぇ良也…霊夢と一緒に成った事を後悔してる?」

突然何を聞くんだ? 僕は霊夢と結婚した事を後悔何てしていない。寧ろ、結婚できて幸せだった。

「そんな訳無いよ。僕は…アイツと結婚して、子供を作って…幸せだった」

「だったら、もう少し前を向きなさい。あなたは前を向いている積りかもしれないけど…向けていないわ。過去を振り返るなとは言わない。彼女の事を忘れろ何て言わない。不老不死だもの…遅かれ早かれ、私達の周りは私達を置いて逝ってしまうわ。」

違う。僕は…

「輝夜も妹紅もあなたと同じ事を経験しているわ。あなたとは一寸ベクトルが違うけど…それでも二人はああやって『今』を生きている。あなたは『過去』を見すぎて『今』を生きれていないわ。」

「…そんな事は」

「無いと言えないでしょ? 今が色褪せて見えるでしょ? 今が味気無い、物足りないと感じているでしょ?」

確かに…そうだ。僕は、彼女と過ごした日々をずっと思い出して居る。思い出し続けている。

「寂しいでしょ?」

「そう…だね。寂しいよ…僕は、ずっと過去に縋っている」

本音が出た。コレは僕の心の奥に仕舞っていた、言葉。

「だったら、飲みなさい。騒ぎなさい。心の仕組みはね、以外と簡単な物なのよ? 辛かったら飲みなさい。悲しく成ったら、寂しく成ったら飲みなさい。あなたの周りには…私達が居るでしょ? あなたと同じ、私達が」

ああ、そうか。僕は…ただ、悲劇の主人公を気取っていただけなんだ。ガラじゃない。ガラじゃないよね。
僕は不老不死のお菓子売り。人里の子供達や大人達にお菓子や外の物売るのが仕事の人外だ。
そんな僕が悲劇の主人公なんて似合わないにも程が有る。

「それに、寂しいのなら誰かを愛して、愛されれば良いのよ? 」

「流石にソレは無理だよ。僕は今でも霊夢を愛してる」

コレだけは永遠に変わらない。

「そう…時間は沢山在るのだから…偶には考えなさい。別に輝夜や妹紅でも…私でも良いのよ?」

「え?」

「冗談よ」

クスクスと笑う永琳。吃驚したぁ…そうだよね。流石にソレは無いよ。
グイッとコップを空にして、今だに言い争っている二人の間に割って入る

「僕も入れろー!!」

「何? 良也が飲み比べで私に勝てると思ってるの?」

「へぇ、言う様に成ったじゃないか」

ごめんなさい。調子に乗りました。







飲み比べを始めた三人を離れた所から見ながら、自分のコップを空にする。

「スプレーギグの菊に…千日紅白か…何にしても、時間が掛りそうね」

スプレーギグの菊の花言葉は【私はアナタを愛する】

千日紅白の花言葉は【不屈の心】

そして



【変わらぬ愛】





騒ぐ三人とソレを微笑みながら見守る一人を、遠くから眺める影が一つ。影は傘をクルリと回して踵を返した。

「アナタはそうやって馬鹿をしてなさい。その方が、らしいわ。」

土樹良也、蓬莱人にして今亡き博霊の巫女。博霊霊夢の夫。
外の世界の物を売る彼は、以外と好かれている。人間、人外を問わずに。
明日も彼は菓子を売る。変わらぬ姿で、変わらぬ笑顔で。







あとがき。

時に囚われた人は笑うよ。あははと変わらぬ姿で
時に囚われた人は笑うよ。変わらぬ声で
悲しくなったなら、友を呼ぼう。
辛い時が有るのならば、友と騒ごう。
涙は流すだけ無駄なモノ。笑って福を招いて行こう。
昔より今を楽しいと思えるのなら、友と杯を交わして酒を飲もう
今日が昔より楽しいならば、友と集まり騒ぎ倒してやれ
嗚呼、今日も僕は。精一杯、『今』を生きる。
嗚呼、明日も僕は。精一杯、『今』を生きていこう。

時に囚われた人は笑うよ。悲しい時でも、大声で
時に囚われた人は笑うよ。辛い時でも、変わらぬ声で
時に囚われた人は笑うよ。永遠の時の中で大切な『今』生きているから
ツマミが無いのなら、過去を話そう。
辛い記憶でも、今なら笑い飛ばせる。
嗚呼、何時も僕は。精一杯、『今』を生きる
嗚呼、今日も僕は。精一杯、『今』を誇る
過去を思い出し、糧として行こう。
大切な思い出を誇って行こう。

永遠の時間が有るのなら。僕の時間を誇って行こう。

うん。行数稼ぎだ。不意に頭に浮かんだ。文句は聞かない。寧ろ聞きたくない。
ごめんなさいワードだと、大体七十KBだ。勘弁してくれ。何かそう出た

実は幽香フラグだったんだよ!!(嘘です。)





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