リーン…リーンと、虫が無く。耳に優しい、静かな声で鳴く。
夜空に浮かぶ月は満月で、地上から見上げると竹の葉が重なって何時もよりその輝きが美しく思えた。

「…行くか」

居候をしている屋敷を、酒を持って静かに出る。

「…もう、百と五十年か」

時が経つのは早い。永遠に変わらない自分からすれば、余計にそう思ってしまう。
今日は途中から歩こう。迷いの竹林を空を飛んで出る。人里が見える前に地面に降りて足を進める。
妖怪には襲われない。勿論、妖精にも襲われない。満月だったので紅魔館の悪魔っ子に出会うかもしれないと警戒していたが、取り越し苦労に終わった。
自分の能力に驚きながらも、鍛えた気配遮断。見つかる事も多々あるが、結構自信がある。

(それでも見つかる時は見つかるけど………スキマとかスキマとかスキマとかに)

脳裏に出てきた生涯の天敵。その出鱈目具合に気持ちが落ち込む。苦手なモノは苦手なのだ。治る予定は無い。
そんな事を考えながら、人里を通り神社へと向かう。
辿り着いた場所には、少々汚れている大きな石。流石に一世紀半も有るのだ。暇を見つけては掃除をしているが、どうしても汚れてしまう。

ドカリと石の隣に腰を下ろして、持ってきた酒をコップに満たす。一つは石の前に、もう一つは自分の手の中に。
チンと、音を立てて併せたコップ。墓石に向かって口を開く

「今日も来ちゃったよ………霊夢…」

百五十年前に他界した、愛しき人の名前をポツリと吐いた。

思い起こせば、自分はこういった事を理解しながらも余り考えなかったのかも知れない。
最初は結婚するとは思っても居なかったし、子供が出来るとも思っていなかった。
勿論、最終的には幻想卿に永住するつもりで居た。不老不死なんて存在が外の世界で平穏に暮らせるとは思わなかったし、思えなかった。
霊夢と一緒になってからは驚きの連続だった。楽しい事の連続だった。元から楽しい事は多かったけど、結婚してからはより一層楽しかった。幸せだった。

勿論、今が楽しく無いという訳でも、幸せでも無いという訳でも無い。住ませて貰っている永遠亭の皆とは旧い知り合いで友人だし、時々やって来る萃香とも笑いながら酒を飲む。
宴会にも顔を出すし、紅魔館で飲むワインも美味い。それでも、こう思ってしまうのは僕の覚悟が弱かったからだろうか?

(寂しいなぁ)

彼女が死んでから、世界の色が薄くなってしまった様に思ってしまう。あの子達が死んでから、より一層…世界が味気無く感じてしまう。

(覚悟はしてたんだけどなぁ…)

覚悟は有った。寧ろ、その覚悟が無かったら結婚何てしていない。彼女との別れも笑って見送れた。あの子達との別れにも笑って見送ってやれた。

流石に結婚した時は泣いたけど…

「ふぅ……君が今の僕を見たら何て言うのかな?」

似合わないのは解かっている。けれど…どうしても昔有った彼女との日々を思い出してしまう。

「アレ? もう、無くなちゃったか……」

今日はもう帰ろう。今度来る時は花も持って来ないと…明日も朝は早い。

そう思い、腰を上げて歩き出した良也を兎がコッソリと見ていた。







良也が、永遠亭に帰ってくる少し前

「…という感じです。」

ウサミミを揺らして、屋敷の主に報告するのはブレザーに身を包んだ鈴仙・優曇華院・イナバ。
その報告を聞いて、屋敷の主である蓬莱山輝夜。輝夜はフゥと溜め息を吐いて鈴仙を下がらせて。ヤッパリかぁ〜とぼやいた。

「予想通りだった? 輝夜?」

「その通りよ、永琳……良也の事だから大丈夫だと思っていたのだけど…最初が最初だったから」

「あの巫女が変えたんでしょ? あの巫女が居なければ、不老不死の一番の問題に直面するのはもっと先だったかも知れなかった筈だから…」

「それじゃあ、先輩として一肌脱ぎましょう。ね? 永琳?」

「フフフ、そうね。不老不死の先輩としてね」

宴の準備がひっそりと開始された。




あとがき

短けぇ…
始めまして、BINです。知ってる人はこんにちはです。
三次作は初めてです…違和感が有るのならばご指摘下さい。
最初の三次が前後編になるなんて…アホか俺と思っています。



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